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В.д 手加減無用 - 04

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「さて、この中からボスを見つけるのは、どうしたらいいかしら?」


 大抵、威張り散らしているボス役は、きまって、最後の登場だ。

 特に、現状把握もできていない敵地に忍び込むのなら、必ず、下っ端を送り込んで来るのが定石だ。


 だから、必ず、ボス格が、この四人の中にいるはずなのだが。


「あっ、それなら、俺が得意」

「俺も」


 壁側で、呑気に座って自分の食事をしていた男達が、数人手を上げた。


 セシルがただ男達を振り返り、ジッと、眺めている。


「ここは、傭兵の溜まり場です」


 一番小さな子供が、セシルの隣に寄って来て、それを告げた。


「あら、そうだったんですか」

β(ベータ)も、何人かから、情報を貰っていました」

「なるほど」


「大抵は、ギルド商会できちんと登録されている奴らだろう、って言っていました」

「そうですか」


 その情報を整理し、ふむ、とセシルも考えてみる。


 どうやら、子供達の大暴れに満足して、その子供達のマスターであろうセシルが現れたから、仕事がてら、いい金蔓(かねづる)になるかもしれない、と傭兵達が判断したのだろう。


「この仕事に関われば、少々、厄介事に巻き込まれるでしょう。仕事の邪魔だけならともかく、邪魔な存在として、消される状況も出てくるかもしれません」


 傭兵達は何も言わずセシルの話を聞いて、セシルを観察しているだけだ。


「それから、ギルド商会で登録されている傭兵とは言え、この場で、無闇矢鱈(むやみやたら)に情報を流しては、ダブルクロス(裏切り) され、敵側に情報を売られる可能性もありますので」


 セシルは、傭兵達の身の危険を警告していると同時に、信用しない奴に手を借りる気はない、とも(ほの)めかしている。


 呑気に椅子に座り、腕を組みながらセシルを眺めている一人の傭兵が、少し首を倒してみせた。


「なるほど。だったら、俺の傭兵証明書を見せてやる。それで足は掴まれた。俺が裏切ったら、ギルド商会に苦情を出して、登録抹消の要請を出せばいい」


「その前に、私達が抹殺されていることでしょう」

「ああ、なるほど。敵の動きの方が早い、ってな」


 ふうんと、その傭兵は一人で納得している。だが、飄々(ひょうひょう)とした態度は変わらない。


「まあ、それは、あんたの身持ちを固めるしかないだろうけど、ここにいる奴らの裏切りは、俺が責任持てるぜ。ここにいる奴らの顔は、全員、知ってるんでね。情報漏れで、裏切りが発覚したなら、ギルドから追跡可能だ」


「そこまでして関わって来る理由が、判りませんが」


 傭兵が、にやり、と口端だけを上げてみせる。


「お嬢さんよ、ギルドを立ち上げるのに、どれだけの苦労をしたと思ってんだ? ヤサグレのような郎党集団を、誰が信用する? 傭兵だろうと、ギルドは商会だ。客の信用を失えば、その日ですぐに仕事を失っちまう。今んとこ、ギルドだから信用できると、仕事が回って来るのに、裏切り発覚でギルドの信用ガタ落ちになったら、俺達の食い扶持(ぶち)が速攻で潰れるからな」


 だから、正規のギルド傭兵として登録された傭兵達には、自分達の仕事に、きちんと責任を持っている者ばかりなのだ。


 ギルドの戒律を犯した傭兵は、速攻でギルド登録を抹消され、二度と、ギルドに顔を出すことはできない。

 各国のギルド商会に指名手配所が回され、定期的な監査だって送られてくる。


 だから、ギルド商会内では、国に縛られない戒律の方が多い。


 口を出さない他の傭兵達の間からでも、その傭兵が口にしたことが間違いではないと、強い意思と気配を感じる。


「ロクデナシに目をつけられたら?」


 その質問が可笑(おか)しかったのか、傭兵が、ははは、と大笑いしてしまった。


「この仕事でロクデナシに会わない日があるかよ」


 それで、残りの全員も、同じ意見だったのだろう。なぜか、全員が笑っている。


 まだ大笑いしているような傭兵が、目をこすり、涙を拭く真似までして、

「だから、しっかり支払うなら、あんたの仕事をしてやってもいいぜ」

「なぜです?」


「そのガキ共、只者じゃないだろ? そんなガキ共を雇ってる()()()()が出て来たんだ。あんたも、相当、只者じゃない。クソガキ共が信用するくらいの金持ちなんて、中々、いないぜ」


「おい、オッサン。誰がクソガキだって?」

「そうだ、そうだ」

「オッサンのくせに」


 ブーブーと文句をたれる子供達は無視して、傭兵が続ける。


「それに、あんたが雇ってる男は、羽振りがいい。正確な情報なら、必ず、その手当てを弾んでくれる。なら、それを許している()()()()がいるはずだ。太っ腹の、な? 違うか?」

「いいでしょう。ですが、ここにいる全員分は、払いませんよ」


 そこら辺は、セシルだってしっかりと念を押す。


「じゃあ、俺な」

「俺も」

「俺だってできるのに」


「では、最初の二名まで。仕事内容は、この中からボス格を探し出すこと。この場で捕縛した、男達全員の名前を聞きだすこと。雇い主の情報、連絡方法、指令内容、次の密会の詳細、落ち合う場所・方法、連絡係の風体、その詳細、何人付き添って、どんな移動方法で、馬車で、そう言った情報も、です」


「いいだろう」

「報酬は、ギルド商会で推薦されている、傭兵の一日の固定賃金額、10アルジェンティで」


「いいだろう。それ以上の情報を得た場合?」

「その情報の価値により、固定賃金額に加え、その半額、または同額の追加分を支払いましょう」


 この世界で、10アルジェンティは、要は、10銀貨だ。平民の一日平均収入が、1アルジェンティであるから、情報だけでも、かなりの高額の部類と言える。


「いいだろう」

「契約書は?」


「いらねーぜ。ここの全員が証人になる」

「わかりました。では、残りの皆さんは、何が出て来ても、何を聞いても、耳を塞いで、聞かなかったことにしていてくださいね」


 そして、あっさりと、端的に、そこをきっちり締めるセシルだ。


 傭兵の口端が、皮肉気に曲がっていた。


「俺はケティル」

「俺はインゴ。あんたは?」

「マスター、と呼んでください」


 ケティルとインゴの口端が、更に、皮肉気に曲がる。


「あんたも相当な女だな」


 身元も明かさず、こんなゴロツキもどきの傭兵達を相手に、淡々と商談を済ますセシルは、並の女ではないはずだ。

 隙も見せなくて、危ない女だ。


「では、その二人が仕事に取り掛かっている間、私達は、少し食事を済ませましょう。お腹が空いてきました」


 なにしろ、セシル達が王宮に閉じ込められている間は、硬いパンを、バリバリと食べていただけである。

 味もなく、硬いだけの歯応えで、もう、飽き飽きしていたのだ。


「昨夜は、トースティを食べれましたけれど、さすがに、ねえ……」


 確かに、昨夜だけは、トースティ(Toasty、トーストサンドイッチのこと) を食べることができて、あれだけは……悲惨な食事から逃れ、セシル達には救いだった。


「トースティ? 俺も食べたいです。食材買ってきますから」

「俺もです」


「あなた達は、普通の食事をしていないのですか?」

「しましたけど。トースティも食べたいですっ」

「「俺もです」」


「いいでしょう。では、なにか食材を買ってきてください。ですが、見張られている可能性がありますから、警戒は怠らずに」


 はいっ、と子供達がお行儀よくしっかりと返事をする。

 セシルは、ショルダーバッグとして背中にかけているバッグからお金を取り出し、子供達に手渡した。


「では、気を付けて行ってきなさい」


 はいっ、と元気よく子供達は店から飛び出していった。


 その後ろ姿を見送って、ギルバートは、ちらりと、伸びている男達を、傭兵達がまた縛り上げていく様子に目を向ける。


 こんな緊急を要する、切羽詰まった場で、これから仲良くお食事会で、かたや、傭兵による尋問会、である。


 緊張感もなにもなく、おまけに、あまり知られたくない裏の事情まで――知られてしまいそうな気配に、ただただ、ギルバートの頭痛を生むものだった。





読んでいただきありがとうございました。

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