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В.д 手加減無用 - 02

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「さて、一体、何が起きているのかしら?」

「さあ」


 子供の方も、あまりに端的に、あまりに短く返答しただけだ。


「ですが、θ(シータ)がある屋敷に潜り込みました」

「それは、たった一人きりで、ですか?」


「そうです」

「危険なことはしないようにね、と言いつけてあったのですがね……」


 一人きりで、敵の巣窟かもしれない場所に乗り込むなど、危ないことをするフィロだ。


「今は?」

「今は、α(アルファ)達と一緒にいます」


「一人ではないのですね」

「違います。一度、戻ってきましたから」

「そうですか」


 どうやら、夜会から逃げ出した後、やはり、フィロは伏兵の可能性を考え、見張っていたのだろう。


 たった一人きりで、危ない真似をするのだから……。


 フィロは頭が切れ、慎重で、冷静で、冷酷で、計算高い。無駄なことはしないし、無駄を嫌うし、超現実的で、いつも、一番効率的で、素早い解決方法を探すタイプだ。


 だから、無謀に行動したりしないし、無茶をするタイプではない。


 むしろ、勝算があるから、たった一人きりで、行動を起こしたのだろう。


 そうは解ってはいても、すぐに危ないことをしそうな気配に、セシルも懸念が止まないものだ……。


「次はいつですか?」

「明日の晩ですが、γ(ガンマ)が、今日の夜には戻ってきます」


「連絡係をしてくれているんですか?」

「そうです。私達を野放しにするのが危険だ、と」


 腹の立つ言い様だ。


 セシルが笑いを堪えたように、ちょっと口をすぼめていた。


「それは好都合です。今回は、二週間という期間がありますが、いい加減、さっさと片付けてしまいましょう」


 そんな――あっさりと言い切れる根拠は、一体、何なのか、計り知れない令嬢である。


「わかりました」

「手加減無用、です」

「本当ですかっ?」


 そこで――この子供の声音が、嬉々としているように聞こえてしまうのは、なぜなのだろうか?


「そうですね。なにしろ、今回は、随分、私の邪魔をしてくれていますからね。おまけに、無駄に、三日も監禁されてしまいましたし」


 それで、ギルバート達を婉曲に責めている口調だろうか……。


「徹底的に、叩き潰しましょう」

「そうですか」


 そして、やはり、先程、この子供が嬉々としている、とギルバートが感じたのは、気のせいではなかったようだ。


 この子供……。


 セシルの言葉を聞いて、完全に喜んでいる。


 このセシルと言い、この子供と言い、信じられない者達ばかりだ!



* * *



 子供に案内されてやってきた場所は、王都の繁華街からかなり離れた場所で、治安も良いとは言えない、少々、(すさ)んだ場所でもあった。


 薄汚い通りを進んで行くセシル達を、壁に寄りかかっている浮浪者や、男達が、ジロジロと、あからさまに汚い視線を向けて、値踏みしている。


 ギルバートとクリストフは私服を着ていても、(かも)し出す雰囲気からして、身なりからして貴族だと一目瞭然で、それではあまりに目立ってしまうということで、セシルの護衛から借りた黒いマントで身を隠している。


 細い横道に入り、日も当たらないような影が伸びた場所の一つに、子供が重いドアを押して、中に入っていった。

 セシル達も続いていく。


 ドアの向こうでは、薄暗い室内で、テーブルや椅子が並び、混雑していない程度に、客がいるようだった。

 どうやら、飲み屋のような場所にやって来たようである。


 セシル達が入って来ると、一斉に、全員の警戒したような視線が投げられる。


 誰一人、動く者はいなかったが、それでも、下手な動きをすれば、すぐに飛びかかって来そうな押し殺した殺気は、ギルバート達だって気づいている。


 マントの下で、ギルバートの手が、軽く(つか)に伸びていた。


 セシルがサッと辺りを見渡し、スタスタと、中に進んで行く。


 カウンターの前にやってきて、

「ここのマスターは?」

「俺だが?」


 カウンターの後ろにいた男は、背はそれほど高くなくても、偉丈夫だ。かなり短く刈り上げた金髪には白髪が混じり、胡散臭そうにセシルを見返す目は、全く好意的ではない。


「これから、少々、うるさくなるかもしれませんが、お店に迷惑をかけた分は、後で支払いますので」


 いきなりやって来て、淡々とそれを告げるセシルに、店のマスターの顔が嫌そうにしかめられる。


「マスター」


 カウンターの後ろから、一人が駆け寄って来た。


「ご無事のようで」

「ええ、そうですね。問題はありませんか?」

「ありません――」


 それを答えた一人――もう一人の子供を遮るように、バタンッと、忙しなく、ドアが閉められる音がした。


 裏口からやって来たのか、誰かが忙しなく店の中に走り込んでくる。


「十人程でした」

「そうですか」


 また――新手の子供がやって来て、ギルバートとクリストフが口に出さずに、微かな驚きを見せる。


 三人の子供!?


 セシルが、クルリ、と後ろを振り返り、

「皆さん、これから少々うるさくなりますので、せっかくの食事を邪魔するのは気が引けてしまいます。ですから、壁側に寄っていてくださいね」


 素性も知れない女が勝手にやって来て、ガラの悪そうな男達に、いきなり指示を出す。

 そこに集まっている客のような男達が、全員、敵意交じりの警戒を向け、無言だ。


「警告はしましたので、巻き込まれるかどうかは、皆さんのご自由に」


 そして、セシルはそれだけである。


「手加減無用だって」

「えっ? マジっ?」

「やったぜ!」


 そして、子供達だけで――なぜか大喜びの気配。


 それを聞いた残りの客達は、なぜかは知らないが、無言で、テーブルをズルズルと引っ張りながら、壁の方に――避難し出したのだ!


「それなら、マスターはこっちです」


 最後にやってきた子供に急かされて、セシルはカウンターから引っ張られ、壁側にある二階に続くような階段を登らされた。


 二人の子供は階下に残っているようで、一緒に階段を登ってこない。


 一直線の階段を登ると、そこはすぐに廊下で、何個か扉が並んでいることから、上は宿屋になっているらしい。


 セシル達が廊下に到着すると同時に、店の重たい扉が押し開けられた。

 ゴソッと、何人かの風体の悪い男達が店に入って来て、すぐに、階段の上にいるセシル達を見つけていた。


 へっと、小馬鹿にして笑ったのか、すぐに男達が店内を横切り、階段を駆け上がって来た。


「甘いぜ」


 あまりに小馬鹿にしたような態度で、子供が鼻で笑い飛ばしていた。


 階段を駆け上がって来た男達は、六人。


 咄嗟に身構えだしたギルバート達の前で、セシルは全く身構える気配もなければ、逃げる様子もない。

 そして、階下に残っていた子供が、店の扉を、バタンと、またきちんと閉めていた。


 セシルと一緒に階段に上がって来ていた子供が、廊下に立てかけてあった棒――長目の(はり)を取り上げた。

 走り込んでくる男達に向かって、子供が、一気に先の尖った(はり)を突き出す。


「串刺しの刑!」

「――うごぉ……っ!!」

「――うわぁっ……!!」


 階段を一気に走り込んで来た男達だけに、一番前の男が(はり)で突き刺されたことで、その勢いのまま、全員が、団子状態で階段を転げ落ちて行った。


 ドタンッ――!!

 ガタガタ、ゴトンッ――!


「……っうがぁ……!」

「……っぉぐ、わぁ……!!」


 ひょいと、子供が身軽に階段の手すりに飛び乗って、勢いも止めず、そのまま手すりを滑り降りていった。


「ついでに、首吊りの刑!」


 マントの下で縄を取り出した子供が、階段の真下で、玉になって転がっている男達の首に、ひょい、ひょい、ひょいと、首縄を巻いていったのだ。


 最初から輪っかができていたようで、その輪っかに、男達の首を通していく。




読んでいただきありがとうございました。

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