好意がバレバレすぎる幼なじみ
「いってらっしゃい」
「行ってきまーす」
まだ冬の寒さが続く2月の早朝。
早起きが苦手な高校生の俺は大きな欠伸をしながら
身支度を整え玄関の扉を開けると
眠気の残りは一瞬で吹き飛んでしまう。
「おっす、偶然会ったな陽翔」
「あはは……偶然だなあー」
「せっかくだから今日も一緒に学校に行こう……」
艶のある黒髪に悪目立ちするデカリボンを
つけた垂れ目で小柄な身体をした幼なじみの
吉野柚希が待ち構えていた。
いや彼女からしたらほぼ毎日偶然の
出会いということになっている………小中合わせたら
偶然は千回超えるんじゃないだろうか。
「あら柚希ちゃん!毎日お迎えお疲れ様
今日も陽翔のことよろしくね」
「お、おはようございます!おばさん
陽翔は私に任せてください」
「よかったー本当に柚希ちゃんは
頼りになるわね〜ふふっ」
「………」
俺の近くにいた母親が割り込んできて
幼なじみと和気藹々とした会話が始まるのも
毎朝の日常の様になっており
二人の話は聞いてて少し恥ずかしい。
「無駄話するなら一人で行くぞー」
「あっ!待って……陽翔」
これ以上会話が続くと自分を弄る話で
盛り上がりそうなので早足で家から出ていき
無理矢理二人の会話を断ち切ると
柚希は後ろから慌てて俺の後を追いかけてきた。
「ひどい……置いていくなんて」
「あんまり長話すると学校遅れるだろ」
「そっか、陽翔は計算できて賢い……天才」
「いや天才のレベルあまりに低すぎない!?」
隙あらば何でも俺のことを褒めてくる柚希。
彼女とは小学生から家が近くなのもあり
10年と非常に長い付き合いである。
ちなみに彼女は直接好意を口には出さないが
俺にベタ惚れである。
いや俺が自意識過剰とか痛々しい自己愛強い
ナルシストな人間という訳でもなくて……
ただ事実を言ってるだけなのだ、多分。
「陽翔は今日もカッコいい……髪もボサボサに
仕上ってワイルドって雰囲気ある」
「ただの寝癖なんだが……」
「そんなことない………とても素敵」
「………」
小学生の頃柚希は人見知りで
学校ではあまり友達が作れず浮いていたのもあり
自分が心配で声を掛けるとそれ以来彼女は
俺の背中にべったりとついてくる関係になっていた。
多分その頃から彼女は何でも俺をベタベタ褒めたり
一緒に家でゲームして遊んだり依存してる気がする。
良くも悪くも彼女の特徴的なデカリボンはガキの頃の俺が彼女に誕生日プレゼントで渡した物だ。
あのデカリボンを上げたのは少し後悔している。
自分の送り物を大事にしてくれるのは
心から嬉しいのだが流石に高校生にもなって
子供っぽい装飾品をつけてるのは彼女自身が
変な目で見られてしまいそうかと心配になる。
柚希との懐かしい思い出を振り返っていると
隣の彼女から袖を掴まれていたことに気づく。
「陽翔ぼーっとしてないで……大事な話がある」
「ああ、わりーな……大事な話って?」
「明日は女子のチョコに気をつけてね」
「あー………」
すっかり忘れていた、今日は2月13日。
明日は色恋好きには盛り上がる大切な日でもある。
この時期になると幼なじみがいつも変な警告を
してくるのである。
恋敵の警戒や嫉妬という奴なのだろうか。
「女子がチョコを使って恩を着せた男子を後から
搾り取ろうと計画する危険な日……陽翔は絶対に
騙されないで」
「あーはいはい、俺みたいな凡人がチョコ
貰うことはないから心配しなくていいぞ」
「陽翔はいつもカッコいいから……モテモテだし
女子には警戒しないとダメ……」
「はいはい」
柚希は俺を美化してるのもありこの時期には
誰かと俺が付き合うのか不安になっているが
生まれてずっと顔も勉強も運動も
そこそこの平凡マンな人生を送る自分は母親と
柚希以外からチョコを貰った縁等ないし
杞憂でしかない。
それにもう1つ俺が確実に
チョコを貰えない理由があった。
柚希と一緒に長話をしながら学校に
到着し教室の扉を開けると
いつも以上に自分のクラスは騒がしかった。
予想通り明日のバレンタインで男女共に盛り上がっている様だ。
「おっす陽翔!明日何の日か知ってるか?」
「はいはい、どうせバレンタインだろ」
「何だよ反応冷たいなー、彼女持ちの余裕か?」
「いや……彼女いないし」
「毎回その言い訳無理あるって」
友人の色恋話を軽くあしらっていると
隣の席の柚希に女子が集まり挨拶をしている。
「おはよーゆーちゃん!」
「あっ、おはよ…」
「明日のチョコ間に合いそう?」
「まだできてない……でも頑張る」
「うんうん!いい返事!」
今も柚希の人見知りな性格は変わらないが
可愛らしい小柄な容姿が気に入られてか
うまく女子達と仲良くしている。
それともう1つの理由……
「隣の彼氏君喜んだらいいね」
「かっ!彼氏!ち、違うから……作ってるチョコも
えっと、義理だし……」
「照れてるゆーちゃんかわいい〜」
義理の手作りチョコって何……?と突っ込みを
入れたくなってしまうが口を閉じる俺。
「おい離れろって」
「や、やだ………一緒にいる」
学生が思春期真っ最中になる中学の頃から
柚希は異性の俺にべったりと離れなかったのもあり
学校中からあっという間にバカップルで有名となり
高校になっても俺達二人はいろいろ複雑な
人気コンビになってしまったのだ。
バレンタインの時期は料理得意な女子から
クラスの男子全員に義理のチョコを配られたりするが
俺だけ彼女いるから悪いよねと避けられてしまう。
いや柚希とは付き合ってないんだけど。
毎日恥ずかしい思いをするがそこまで悪い気はしない。
昔から人付き合いが苦手で心配だった幼なじみが
いじめ対象等にもならないで偶然にも
クラスの女子達とうまくやっていけてる姿は微笑ましい。
放課後になり帰宅の準備をしてると
柚希の友達の女子から声を掛けられた。
「ごめんねー彼氏さん!今日は吉野さん借りるね」
「あっ、はい」
彼氏じゃないですとは切りがないので突っ込まない。
どうやら柚希は友達の家でチョコ作りを
頑張るらしい。
自分のためにチョコを作ってくれるのには嬉しいし
楽しみだが1つだけ疑問があった、毎年彼女からバレンタインに貰うのは市販のチョコだったからだ。
柚希は手先が不器用なのもあり女子らしい
菓子作りは避けてきたのに今年のバレンタインは
やる気が違う気がする。
手作りチョコを無理して作ろうと拘る理由は何なのか。
「もしかして………好きな男ができたとか?」
つい一人言を呟いてしまう。
彼女からはっきりと告白されたことはなく
実際俺達は正式に付き合ってないわけで
俺が長い間彼氏面していただけなのでは?
「ははは……」
そんな訳ないだろ、ずっと彼女の内面を深く理解してるのは俺だけなんだから臆病な幼なじみが
他の男と仲良くなれるはずがない………考えが完全に
後方彼氏面で自己嫌悪したくなってきた。
「ね、寝れない……」
ずっと柚希のことを考え続けて
気づけば翌朝になっていた。
一睡も寝れないし昨日はまともに
夕食も食べれなかった。
ずっと彼女のことが頭から離れない。
逆だったんだ、彼女が俺に依存してるのではなく
俺が彼女に依存していたのだ。
俺を頼ってくれる可愛い幼なじみと毎日一緒にいて
幸せに決まってるし周りからカップル扱いされて
嫌々なふりしても結局彼女持ちの優越感に
浸っていたのだろう。
「学校行きたくねえ……」
確定した訳ではないが自分のよく
知る幼なじみが知らない男に
チョコを渡す姿は見たくなかった。
枕に頭を埋めて現実逃避をしていると
突然母親の声が俺の頭に響く。
「ちょっと〜柚希ちゃん家に来てるわよ!
早く起きなさい!」
「!?」
俺は素早く布団から飛び出し玄関まで走り出すと
玄関には俺が求めた宝があった。
「えっと……日頃の感謝で……
頑張って作ったから……義理だけどチョコ……」
愛しい幼なじみが小袋に入ったハート型チョコを持ってきてくれた。
型がボロボロだが不器用な彼女なりの努力が伝わる。
「これって俺に?」
「うん……食べてほしい」
俺はチョコを口に咥えると目尻から
他に渡す相手とかいなかった安心感と
彼女の努力が伝わりあまりの嬉しさに
涙が零れてしまう。
急に泣き出す変な俺に幼なじみは驚いてしまった。
「ど、どうしたの……?不味かった」
「いや、うまいぞ!そして甘い!」
「そっか、よかった……」
素直な感想を話したら頬を赤く染めると
黙り込んで顔を逸らしてしまう柚希。
昔から照れ屋な性格だがいつもより反応が大げさな気がすると考えてると彼女の口が開く。
「ああっ、ののおのののお……」
「落ち着け!」
彼女かは変な言葉が飛び出し突っ込む俺。
ひどく緊張してるのがわかった。
「ゆっくり!ゆっくり話せ!」
「あっ………う、うん………」
一呼吸置いて話し出す挙動不審な柚希。
「わわ、私達ってがっこーで噂なってるよね……」
「噂?カップルの話か?」
「そう!かっ、カップル………って噂……噂なだけで
私達その……本当の恋人でも……ないから……」
あっだいたい読めてきた彼女の目的が。
「わわっ私……陽翔のこと……きき、嫌いじゃないし
陽翔がど〜してもつつつ……………つきあいたいなら……
私は………」
柚希はこの日、周囲の噂話やただの友人関係じゃなく
俺とちゃんとした恋人になりたいから
彼女なりにチョコを作って告白しようと頑張ってたんだ。
「ひゃっ!?」
柚希の背中に手を回し小柄な身体を抱き寄せると
彼女の頭を優しく撫でた。
こんな健気な女の子に無理して告白させるわけには
いかない、男の自分から想いを伝えるべきだろう。
「ゆっ柚希………その、好きだ!
俺と付き合ってほしい」
「えっ!?本当に………好き?」
「おう、大好きだ」
「ゆっ夢じゃないの……?」
「ああ、現実だぞ」
「そっ…………そっか」
顔中真っ赤になった幼なじみは
恥ずかしいのか両手で顔を覆ってしまった。
「えへっ………えへへ……」
変な笑いを出してしまう幼なじみ
ニヤニヤと真っ赤な顔が蕩けてしまって
すごいことになっている。
「しっ仕方ないな……陽翔がどうしてもって
話なら………えへへ」
「ああ、お前みたいな美人な彼女と
付き合えるなんて俺は幸せ者だよ」
「びびびっ!!!美人!?」
「ああ、昔からすげえ可愛い思ってた」
「ああっあ、ありがとう………」
普段柚希は俺を褒めちぎる分
今日からは俺が彼女のことを褒め倒してしまおう。
「実は……私陽翔のことだっ、大好きでした」
「うん!俺はもっと柚希が大好きだぞ」
「わわわわわ!?」
あまりの嬉しさに柚希は頭から湯気が飛び出してしまった。
「えへへ……みんなに自慢できる……素敵な彼氏できたって」
「おう、もうカップル弄りも気にしないから
好きなだけ言いまくってこい」
その日柚希は女友達に告白が成功したことを
伝えたが話を聞いた全員が
あんた達本当に付き合ってなかったの!?と
別の意味でクラス中が驚き盛り上がった。
最後まで読んで頂き本当に
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