8.ヒーロー現る
「何してるの!?」
俺と七宮さんは玄関に立っている声の主の方に視線を向ける。
「め、芽衣ーーーー!!」
慌てて走ってきたのか外は寒いのにすごく汗をかいており、「はあ…はあ」と息があがっている。
素晴らしい…!興奮とは違う頑張って走ったからこその「はあはあ」はこんなにも素晴らしいものなのか!
「柳木さん、わたしたちの愛の巣に何のようですか?」
あの穏やかで温厚な七宮さんからは想像できないような鋭い視線で芽衣を睨みつける。
わたしたちのではない、ここは俺の家だ、愛の巣でもない!というか俺にならまだしも芽衣にこの状況を見られても動揺しないのはなぜだろう…本性がバレても良いのか?
「ここは伊月の部屋であって七宮さんとの愛の巣ではないわ。……い、伊月にはもっとお似合いの人がいるのよ!」
芽衣も負けじと睨み返し、そして最後のほうはなぜか少し顔を赤くしながら言っていた。
「あらそうなんですか?そのお似合いの人って最終的には絶対に負組で主人公とは結ばれない幼馴染という属性を持ったテニス部のことではないですよね?」
「ま、負組なんかじゃないわよ!ハッピーエンド迎えている作品もありますーー!」
話にはまったくついていけないが白熱した女の戦いに俺は圧倒された。
しかし、七宮さんの意識が芽衣に向いている隙にはやく離れよう。
今のままだと精神が持たない。
「ぐは!?」
そう思い身体を起き上がらせようとすると胸あたりに手を置かれて床に押しつけられた。
「桜田くんごめんなさい。わたしと早く愛を確かめ合いたいのは分かるけど今はこの人と話しをしないといけないみたいだからもう少しだけ我慢してね」
違う違うそうじゃない!俺は決して己の欲に我慢できなくて起き上がろうとしたのではなく、七宮さんから離れるためなんだよ。
ぐっ…すごい力だ…ボディービルダーか何かに押さえられているようだ。
「伊月から離れて!」
芽衣も参戦して七宮さんのわきに腕を回し俺から引き剥がそうとする。
俺も必死に抵抗してなんとか七宮さんから離れることに成功した。
「…わかりました。今日のところは諦めましょう」
七宮さんは少し残念そうな表情で立ち上がった。
よかった諦めてくれた…今日のところはというのが少し気になるが良しとしよう。
そして新ためて七宮さんを見ると裸であることを思い出し俺は顔が赤くなる。
「見るな!」
「目が、目がーーー!!」
そんな俺が芽衣は気に入らないようで俺に目潰しをしてきた。
視界は奪われ、何も見えなくなる。
「そんなんだから桜田くんに嫌われるのよ」
「う、うるさい!こんな事で伊月は嫌いになんかならないんだから!」
いやこんなことって!普通に目潰し痛いわ!
「今日着てきた服、桜田くんの部屋に置いて帰ろうと思っていたのに残念…着替えなくちゃ」
えっ置いて帰ろうとしていたの?もし俺が警察にでも連絡したら簡単に捕まっちゃうよ?
俺にみつからなかったらどうやって帰るつもりだったんだろう…。
「じゃあね桜田くん、また学校で」
そう言って七宮さんは何にも無かったかのように帰っていった。
良かった…嵐は過ぎたようだ…
「ありがとう芽衣、お前がこなかったらどうなってたか…」
「別にたまたまマンションの前通ったらあんたの部屋の前でゴソゴソする怪しい奴が見えたから見にきただけだから。別に心配とか…そういうのは一切ないから!」
「そ…そんなに否定しなくても…。てかこんな時間に外でうろちょろしてたのか?女の子1人では危ないぞ?」
「外に出てなくても危なかった男の子は誰でしょうね?」
飽きれたような表情で見られる。
「おっ…仰るとおりです。でもこういう状況になったらやっぱり男の方が怪しまれるけど、すぐ俺の味方してくれたよな?」
「怪しい人が見えたからもあるけど…それよりもあんたはそんなことする奴じゃないってわかってるから。伊達に何年もあんたの幼馴染してないわ」
少し恥ずかしそうに言う芽衣に俺も恥ずかしくなり視線をそらした。
芽衣はなんだかんだ言って俺を見守ってくれるような優しいやつだ。