15.あの夏の日
ずっとapexするか、小説だけ書いていたい。
本当はすぐに家に帰りたかったが、小森の本紹介のプリントを手伝うことになった。
聞き分けの良い後輩だったら、喜んで手伝うのだが、小森の場合はめんどくさい。
「先輩読むの遅ーい」
「お前が早すぎるだけだ。あと目を隠すな」
俺の本はごく一般的な量の文字数がある本だが、小森は10ページしかない小さい子向けの絵本だ。
本を読み始めて30分ほど経過しているが、小森はとうに読み終わっており、こうやってちょっかいをかけてくる。
「さっきから真剣に読んでますね」
「命にかかわってくるから…」
「え、なんて言いました?」
「なんでもない」
危うく口を滑らせるところだったが、何とか誤魔化した。
とりあえず俺は本を読むのをやめる。
小森のプリントの手伝いをするために残っているのだから、別に今は読む必要ない。
家に帰ってからじっくり読ませてもらおう。
「そういえば小森は部活入ってないの?」
他の図書委員は話し合いが終わった後に、部活のためすぐに帰ったが、俺と小森だけは図書室に残っている。
そういえば放課後の図書室の受付係も、毎回出席している。
「わたし帰宅部ですよ」
「意外だな。運動部とか入ってそうだけど」
「中学まではサッカーをしてました」
「え、サッカーしてたの!?」
俺も中学校までサッカーをしていたので驚きを隠せない。
「中学までだったら試合してたかもな」
「もし先輩と試合してたら、そんな面白い顔しているのに忘れるわけありませんよ」
「変な顔で悪かったな」
まあ確かに小森みたいな金髪美少女が相手にいたら、俺も忘れるわけがない。
試合をしたことはないのだろう。
「なんで高校でやめたの?」
「もともと高校ではやめるつもりでいました。高校ではプレイヤーではなくて、マネージャーになろうと思ってましたから」
「マネージャーいいね。うちのサッカー部は全国TOP10に入るのは確実って言われているし、エースを筆頭にイケメンぞろいだからな」
うちの高校の運動部には必ずマネージャーがいる。
その中でもサッカー部は特に人気だ。
毎年何人ものプロを輩出しているし、過去に卒業してプロになった先輩の中にはマネージャーと結婚したという人も多くいる。
「小森がマネージャーになったら取り合いになるだろうな」
「嫌ですよ、気持ち悪い」
ぺっと唾を吐くような表情をしながら、嫌そうな顔をする。
「きゅ、急に辛らつだな」
「…そんな人たちには興味ありません」
いつも明るいトーンの小森の声が暗く、声も小さい。
うつむいているが、俺の方に視線は向けている。
どこか悲しそうな表情が俺に映る。
そのときなぜか中学最後の県大会の決勝を思い出していた。
「ふぐっ」
俺は小森にパンっと両手で頬を挟まれた。
「そんなことより早くプリント終わらしましょう。このままじゃ帰れませんよ!」
「それもそうだな」
俺がアドバイスするなどして、プリントは約30分ほどで終わった。
「わたしこれ先生に出してくるので、先輩は先に帰ってください」
「おっけー、じゃあそうさせてもらうわ」
俺は荷物を整理して席を立つ。
小森が図書室を走って出ていくとこを見るとまた脳裏に決勝戦が浮かぶ。
「小森ちょっと待ってくれ」
「なんですか先輩?」
「お前って年の近い兄か弟いる?」
「?わたしは一人っ子ですよ?」
俺の質問を聞くと小森は首をかしげて少し不思議そうな顔をした後、そう答えた。
「そうか…すまん止めて」
「ほんとですよ。私は先輩と違って暇じゃないんですからね」
べーっと舌を出した後、風のように去っていった。
相変わらず先輩への敬いが足りないやつだ。
太陽が照りつき、夏の暑さを特に感じた日。
中学最後の県大会の決勝。
相手の選手の1人にライバル宣言をされた。
その言葉に戸惑いながらも、白熱した戦いとなり、結果俺たちのチームが勝利した。
少年は悔しさから涙を抑えることができず、地面に倒れていた。
俺はその少年に手を差し伸べた。
少年は俺に手をとると、勢いよく引っ張って押し倒して、ハグしてきた。
俺が戸惑っていると少年は「おめでとう」とつぶやき笑っていた。
その少年の髪は小森のような金髪であった。