14.委員会の後輩
七宮さんと芽衣のいざこざのせいで昼飯にはありつけなかった。
お腹が空いて仕方がないが、朝弁当を作らなかった俺の責任でもあるため自業自得だ。
はやく家に帰って2人の弁当を食べよう。
「これでHRは以上だ。あと桜田、図書委員会の集まりが図書室であるらしいからちゃんと行けよ」
「正気か?」
俺は絶望した。
なぜこういう早く家に帰りたいときに限って用事ができるのか。
楽そうだからという理由で選んだのが間違いだったのかもしれない。
「返事は?」
「あ、はいっ…」
鋭い視線を感じ慌てて返事をする。
相変わらずこの先生は厳しい。
さすがの七宮さんも俺の学校生活に支障が出てしまうためか、委員会に向かうとき手を振るだけで何もしてはこなかった。
◇
図書委員は1クラス1人ずつが配属されており、計12人で活動を行なっている。
今日集められた理由は、去年のように今年も1人1冊おすすめの本を紹介するプリントを制作することについてらしい。
「この紙の1番上の枠に本のタイトルと著者を書いて、真ん中の大きな枠に本に合ったイラストを描いてください。そして下の棒線部分に紹介文を書いてください。1年生は書くのが初めてだろうから、分からないことがあれば2,3年生に質問してください」
委員長の話しが終わり早速作業が開始する。
とりあえず何か手頃な本を探すため立ち上がる。
(まじめすぎる本もダメだし…かといって子どもすぎるのもな…)
どんな本にしようか悩む。
しかし、こういうのはあまり考え過ぎずに、自分が伝えたいと率直に思う本でいいのかもしれない。
そのときふと七宮さんとの出来事を思い出す。
不法侵入され、パンツを盗まれ、俺の清い身体を汚されそうになったことだ。
背筋がゾッとする。
(犯罪の恐ろしさをみんなに知ってもらおう…)
俺は『お家のセキュリティー』という本にした。
本の紹介のプリントを書けて、七宮さん対策もできて一石二鳥だ。
間違いなく七宮さんはまた俺の家に侵入してくるだろうから今度こそは阻止しないと…。
トントン
そんなことを考えていると後ろから誰かに肩を叩かれた。
「?ーーうぐっ」
後ろに振り向こうとすると、俺の肩に手が置いてあり、後ろの人の人差し指が俺の頬にツンッと当たる。
「先輩、引っ掛かったーー!」
聞き覚えのある元気な声と視界に映った人物に俺はため息をつく。
「お前かよ…」
今年入学してきた1年の小森一花。
金髪のショートヘア、サファイアを埋め込んだような蒼い瞳。
確か日本人とイギリス人のハーフで、七宮さんとは違うタイプの日本人離れした美しい少女が産まれたのであろう。
七宮さんのようにモテる存在で、一生関わることはないだろうと思っていたが、図書委員会で一緒になり、仕事の関係上話す機会などができてからというもの、時々このようにイタズラをしてくるようになった。
「お前かよ…って酷いですよ!こんなにかわいい後輩にイタズラされて本当は嬉しいくせに」
「イタズラされて喜ぶなんてどこのMだよ」
「先輩のイニシャルMじゃないですか、村田せーんぱい♡」
「俺は桜田だ!それを言うなら俺はSだぞ?」
「えっ!本棚でみんなから見えてないからってそんな大胆なっ…!」
俺は急いで小森の口を手で塞ぐ。
「お前ほんと何言ってるの、勘違いされるからやめて!?」
「ふぐふほはふほほふふ(別に勘違いされてもいいじゃないですか)」
何か言っているみたいだが口を塞いでいるため分からない。
ほんとコイツはいつもこうやって、俺の評判を下げるようなことばっかり言いやがって…。
何か俺に恨みでもあるのか?
「ぺろっ」
「うわっ!?お前…!」
宵月の口を塞いでいた手をぺろっと舐められた。
俺は驚いて手を離してしまった。
「先輩が手を離してくれないからですよ」
「他にやり方あっただろ…」
俺はハンカチを取り出して舐められた箇所を拭く。
「…そんな念入りに拭かれると少しショックなんですけど」
「いや、当たり前だろ。というか普通は人を舐めたりなんかしない」
「いつでもどこでもペロペロしてあげますよ?」
「いやらしい言い方をするな。そしてそういう冗談を言うのはやめとけ。本気で襲われるぞ?」
「先輩にしかこんなことしませんよ!」
「お前凶悪犯だな」
小森は何を考えているのかまったく分からない。