12.手作り弁当
「残り時間微妙だし授業はここまでにしようかな。チャイムが鳴ったら自由解散にします。それまでは静かにしていてください」
先生はそう言うと職員室へと帰っていった。
時計を見るとまだ授業が終わるまで5分ほどあった。
とりあえず机の上を片付けて財布を取り出す。
どこの学校でも同じだろうが購買はお腹を空かせた少年少女による戦争だ。
ただでさえこの教室は購買から遠いためスタートダッシュをミスれば敗北は確定してしまう。
キーンコーンーーーーー
(オラーーーーーーーーーああぁぁ…)
素早く立ち上がり勢いよく走り出したが腕を掴まれる。
後ろに振り向くとやはり犯人は七宮さんだった。
「あのー…七宮さん?俺購買に行かないと餓死してしまうよ……」
「大丈夫、ちょっと待ってて」
本当は待ちたくないけど、七宮さんの表情は変態のときではなくいつもの七宮さんの顔だったため待ってみることにした。
七宮さんは自分のロッカーへと向かっていく。
すると、男子たちが七宮さんを囲い込む。
「七宮さん、僕と食べませんか?」
「いや俺と」
「いいや俺と」
「お前らは黙ってろ!俺と食べましょう」
「「「お前が黙れよ」」」
これもいつもの光景だが昼になると七宮さんと弁当を食べ、お近づきになりたいという男子は多くいる。
「お誘いは嬉しいんだけど…ごめんなさい、先約があるの」
しかし、この通りお誘いに成功した人は見たことがない。
この前サッカー部のエースから誘いを受けていたが即答で断っていたことは学校でも有名だ。
「そうですか…わかりました」
「今日は諦めます」
「またお誘いします」
「お前らは黙ってろ!また機会があれば俺と」
「「「お前が黙れよ」」」
あの男子たちはたぶんこれまで何百回と断られているだろうに諦めないなんて悪くいえばしつこいけど良く言えば七宮さんひとすじだと言えるだろう。
浮気などをするような人よりもあんなふうな人たちのほうが俺は好きだ。
「咲ちゃん、お昼食べよー」
他クラスから女子生徒が2人入ってくる。
たしか家庭科部の人たちでいつも七宮さんと弁当を食べている人たちだ。
毎日昼になると教室まで七宮さんを迎えに来ている。
「香奈ちゃん、ニ亜ちゃんごめん。今日はちょっと…」
珍しい。
てっきりいつもあの2人と一緒に食べているから先約というのはあの2人のことだと思っていたけど違うみたいだ。
すると、その2人が俺の方をじっと見てくる。
なんでこっち見てんだ?
「そっかーじゃあ仕方ないね香奈」
「そうだねニ亜ちゃん、邪魔したら悪いし」
2人は何かを察した顔で風のように去っていった。
七宮さんは自分のロッカーを開けて弁当を取り出した。
その瞬間、クラスにいた人たちは驚きの表情を見せる。
いつも七宮さんが持ってきているピンクの布に包まれた弁当ともう一つ、水色の布に包まれた弁当箱があったのだ。
恥ずかしそうにしながら俺の方へと近づいてくる。
「桜田くん今日購買でしょ?その…弁当作ってきたから一緒に食べない?」
「「「えっ…?」」」
俺以外にもクラスのみんなが驚いている。
朝のおでこあわせは七宮さんが勢いでやってしまったことと済まされて、「七宮さんは天然だなー」や「優しいなー」とクラスメイトに言われて終わった。
しかし、この弁当を作ってきたというのは勢いでやってしまったとは済ませることができない。
それにこれまで男子からのお誘いを断り続けた七宮さんが自ら男子を誘ったということに驚いている。
女子たちは「キャーキャー!」と黄色い声を上げ始め、男子たちは「枯らしてやろうか!」と殺気だっている。
俺は返事に戸惑い、急いでどう誤魔化そうか考える。
しかし背中にゾッと寒気を感じドアの方を見るとさっきの家庭科部の2人が俺を殺意のこもった目で見ていた。
言葉を発してはないものの「了承しろ」「しなかったら分かってるだろうな?」と言わんばかりだった。
まるで銃口を向けられているような殺気に耐えきれず。
「俺で良ければ…」
「うん、ありがとう!」
七宮さんは嬉しそうに笑顔を見せてくれた。
あの二人何なんだよ…。