第9話「シルビー」
「ロボ戦」第9話です。遅筆でございます。楽しく読んでいただければ幸いです。pixivでも挿絵付き小説や設定画を載せております。いずれアニメ化をする予定です。よろしくお願いします。
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1
ティアーズ共和国、北半球に位置するスローズ大陸。首都ルイセンから東に2000kmのところにある
海の街スタータ。北には共和国の霊峰タガワ山が裾野を広げ、南にはスラント湾が広がる。
スラント湾から東に向かうとスローズ大陸と南半球に位置するラーム大陸に接するクリノメタ海峡がある。南北大陸を繋ぐ要衝である。
また、スラント湾を南に行くとラーム大陸とキンデ連邦のあるミセル大陸の中間地点に位置するトロコイド洋に出る。
2
「朝のニュースをお伝えします。先日、大統領府から発表されたティアーズ共和国軍とショベル帝国軍による捕虜の交換について軍広報より会見がございました。昨夜のノア姫の会見の様子をご覧ください」
「ティアーズ共和国、国民の皆さん。いよいよ我々の同胞が戻ってまいります。長い者で1年半もの間、過酷な状況にあった戦士もいたとお聞きしました。ご家族、ご友人の皆さま、お待たせしました。残念ながら生きて国土を踏むことが叶わぬ者もいらっしゃいます。どうぞ、温かく彼らの帰国を迎え、喜びましょう。我らが『ロボ戦』達が必ず連れて帰ることでしょう。わたくしも本土での受け入れ準備においては、全力で取り組む所存であります」
会見を最後まで見終えると、少女はモニタを消した。ベッドから起き上がりテーブルに置いてあった筆記用具をかばんに入れて部屋を出る。彼女の名前はシルビー。昨年スクールを卒業したシルビーはひとりで暮らしている。
部屋は50戸ほどある集合住宅の一室。それぞれの部屋は立方体でできており、各部屋が短いパイプで連結されている。ティアーズ共和国は災害が多く、地震、津波、高潮などがあった際、連結を緩めて衝撃を吸収・緩和したり、大規模な災害になると連結を解除して部屋そのものが独立したシェルターとして機能したりするようにできている。その分、外見より中の生活空間は狭い。天井や床下には防災設備や備蓄品などがあるからだ。これはティアーズ共和国が数百年の災害経験で得た知恵である。
戦時下であるが、スラントは戦地からは遠く、安全だと言われている。戦争は生まれながらにして使命をもったロボット戦士たちによって行われる。シルビーはロボット戦士ではない。お助けロボットだ。
部屋を出ると小さな一本道。緩やかな下り坂を海に向かって歩いていく。道すがら小さな幼稚園を通る。子どもたちが先生に見守られながら遊んでいるのが見える。姿形からでは分からないが、彼らにも産まれ出た瞬間から備わっている使命がある。この子どもたちの中にはきっと職人ロボ、学者ロボ、政治ロボ、様々な使命をもったロボがいるのだろう。もちろん戦士ロボも・・・。
13歳を過ぎたシルビーはお助けロボとして自分の仕事を決める時期に差し掛かっていた。
15分ほど歩くと商店街に着いた。港に通じる大通りには数百件もの専門店が立ち並ぶ。シルビーには目的があった。迷うことなくとある店に入る。
【メガネのフシアナ】
「いらっしゃいませ。ここには多くのゴーグル、メガネを取り揃えてあります。お安くしておきますよ、えっへん。色違いもございますよ、えっへん。お客様のサイズ調整も素早く行います、えっへん」
「・・・・・・・・(小さな声)」
「おー、そうでらっしゃいますか!ご家族が!それはおめでたいことです。戦闘用ゴーグルですね。ありますとも、ありますとも。ではこちらへ」
「・・・・・・・・(小さな声)」
「そうですか、サイズは・・・。あぁ、これがお客様のサイズ表ですね。わざわざ書いてくださりありがとうございます、はい」
「・・・・・・・・(小さな声)」
「なるほど、でありますと、こちらはどうでしょうか?ここを見てください、レンズにワイパーが付いているんですよ。雨天での戦闘にはうってつけです・・・・」
「・・・・・・・・(小さな声)」
「でありますと・・・・・こちらなどはいかかでしょうか。敵接近時のアラームや夜間での暗視機能が優れた商品となっておりますよ」
「・・・・・・・・(小さな声)」
「おやっ、こちらの商品ですか、そうですか。こちらの商品は決して多機能という訳ではありませんが、作りが堅牢になっております。つまり壊れにくくなっております。爆風に対して周囲にフィルタを形成して頭を守ります。レンズは他と同様にフィルムを貼っていますので突然の閃光でも目をやられることはありません」
「・・・・・・・・(小さな声)」
「そうですね。レンズフィルムは最近の傾向としてどのゴーグルに標準装備されていますので、はい」
「・・・・・・・・(小さな声)」
「ありがとうございます。お色はこちらでよろしいですか?」
「・・・・・・・・(小さな声)」
「毎度ありがとうございます。調整まで3時間ほどいただきますがよろしいですか?」
「・・・・・・・・(小さな声)」
「ではお会計をお願いいたします。ご家族に『ロボ戦』様がいらっしゃる場合には特別価格でご奉仕いたしております」
「・・・・・・・・(小さな声)」
「いえいえ、とんでもございません。ぜひ、お国のために勝っていただきたいものです。陰ながら応援させていただきます」
3
店を出ると商店街を突っ切って海岸まででてきた。東南の方向からまぶしい日差しが降り注ぐ。ここは遮るものがなく直にシルビーの頬を照らす。さて、どうやって3時間時間をつぶそうか。いや、3時間と言っていたが実際には2時間半くらいでできていて、はやめに行っても出来上がっているに違いない。
時間をつぶせそうな店を選び中に入る。
「いらっしゃいませ。こちらのお席にどうぞ。ご注文は何になさいますか?」
「・・・・・・・・・(小さな声)」
「はい、ぐるぐる目玉焼きですね。ご注文ありがとうございます。お待ちくださいませ」
椅子に腰かけ、店の設置してあるモニターを見る。昼のニュースが流れている。オーナメン島に駐留している部隊が捕虜の交換のために出航準備を行っているというものだ。次々に映し出される現場の様子をまじまじを見つめるシルビー。彼女の関心ごとなのは間違いない。
ひと通りのニュースを見終わると、シルビーはカバンから紙とペンを取り出した。
そして紙をじっくりと見つめながら何かを書こうとし・・・
「ぐるぐる目玉焼き、お待ちいたしました!」
・・・書こうとしたら、店員が料理を持ってきた。
急いで筆記用具をテーブルの隅にまとめる。
「・・・・・・・・・(小さな声)」
「ごゆっくりどうぞ」
円い形の白身の上に半熟の黄身が乗っかっている。甘いソースがぐるぐるとかけられ湯気と共にシルビーの顔にまで漂ってくる。
ひと口ひと口、きれいに口に運ぶ。
「・・・・・・・・・(小さな声)」
食べ終わると、再び紙とペンを取り出した。
小さな文字でびっしりと紙を埋める。決してきれいな字とは言えないが、年頃の少女の書くそれと同じで、かわいらしさが感じ取れる。
食べ終わり、手紙を書き終えると店を後にした。
4
【メガネのフシアナ】
再びメガネ屋に入る。
「いらっしゃいませ。あっ、これはこれは、先ほどの・・・えっへん。お待ちしておりました。ご用意はできておりますよ、えっへん。さあさあこちらに」
やっぱり2時間くらいで準備ができていた。
「・・・・・・・・・(小さな声)」
「いえいえ、こちらは大丈夫ですよ。少々お待ちを」
ショーケースの前で待っていると店員が店の奥から包を持ってきた。それはきれいに包装されていた。
「こちらでございます。さぁどうぞ」
「・・・・・・・・・(小さな声)」
「毎度ありがとうございます。お帰りはお気をつけて。ティアーズ共和国万歳!ロボット戦士に栄光あれ」
店員の大きな声援を背に受けて店を出る。嫌な気分ではなかった。
5
嬉しい気分のままやって来たのは通信局。昼過ぎは少し混んでいる。シルビーはそのことをすっかり忘れていた。しばらくすると窓口の一つが空いた。
「いらっしゃいませ。ご用はなんでございましょう」
「・・・・・・・・・(小さな声)」
「おお、軍事郵便でございますか。それはおめでたいことで。さて、行先はどちらになられますか?」
「・・・・・・・・・(小さな声)」
「オーナメン島ですか!それではご家族が戦場に・・・!いやいや、先日の奪還作戦、本当にご苦労様でありました。大変ご立派なことでありますな。あっ、お荷物はこちらにお願いいたします。もちろん送料は無料になります」
「・・・・・・・・・(小さな声)」
「はい、お手紙もですね。一緒にお預かりいたします。ただいま準備いたします、お待ちください」
会話を聞いていた近くの人たちがシルビーに話しかけてくる。
「お嬢さん、ニュースを見ました。あの戦場にご家族がいらしたのですね。感動しました」「ご家族が『ロボ戦』とはなんと素晴らしい」「我々も応援しています。勝ってください!」「お姉ちゃん、握手してよ」
ちょっとした人だかりができてしまった。
「・・・・・・・・・(小さな声)」
シルビーは全ての言葉に上手く返せなかった。他人と目を合わすのも苦手意識がある。
「お待ちどうさま。準備が整いました」
通信員は手紙の添えられた荷物の右上にシールを貼ると後ろの配送ラインに回した。
「これにて終了です。現在は空の安全も確認されておりますので空輸になります。おそらく3日後には基地に届く予定です。こちらが受領書です。無くさないようにお願いします。ティアーズ共和国万歳!」
「・・・・・・・・・(小さな声)」
6
帰路。
帰りはゆるやかな上り坂。しかし、今日のシルビーはあまり辛く感じなかった。むしろ、いつもより足取りが軽い。
再び幼稚園の前を通る。ちょうどお迎えの時間で、門の前にはたくさんのお迎えの親と子どもの姿。話し合っている親の周りを子どもたちが無邪気に走り回っている。シルビーは気配を殺して素通りする。
と、足のかかとに何かが当たる。
足元を見ると柔らかいゴム球。きっと子どものものだ。屈んでゴム球を掴む。
ひとりの子どもが駆け寄ってくる。きっとこの子のに違いない。しかし、少し手前で立ち止まる。シルビーは、その子に向かってボールを差し出すとにっこりほほ笑んだ。
・・・・・子どもは後ずさりした・・・・。
「jytjhfげらh・・・・・・!!!!!」
シ、シルビーは、ご、ゴム球を子どもに向けて転がすと走り出した。
日も暮れる頃、シルビーは家に戻った。すぐさまお気に入りの浮遊ベッドに寝転がる。今日は忙しく過ごしたなと思った。誰かと関わるのは大変だなと感じた。子どもは少し苦手だなあと思った。いろいろなことを思った。
そしてそんなことより何よりも、シルビーにとっては3日後が楽しみなのだった。
読んでいただきありがとうございます。乱筆乱文お許しください。次回の10話で1部が終了します。だいたい5部(50話)で完結する予定です。時間はかかりますが完走を目指します。
次回、第10話「健康診断」楽しみにしてください。 ごむぬけより