第7話「クラウン皇帝」
「ロボ戦(ロボット戦士)」の7話目です。文量は短いです。全部で40話くらいで完結させたいと考えています。すみません遅筆です。
最近は豆腐メンタリストという称号を頂きました。名前はダイズだそうです。少し嬉しくないですね。豆腐メンタルの人は一緒に落ち込んで二日津島翔、いや復活しましょう。
1
オーナメン島奪回から2ヶ月。ここはショベル帝国首都ナスバにあるスコプ城。その中で、最も煌びやかで荘厳な部屋。玉座の間「砂上の楼閣」。
「やぁ諸君、おまちどう」
10万の軍団員を束ねる団長とは思えない口調のアリスト。
軽い男。
「遅いぞ」
「そもそも帝都を守るのはお前の役目のはず。近くにいるのなら一番先に来ているべきでは」
矢継ぎ早に問い詰めるのは「水の軍団」軍団長モートルと「火の軍団」軍団長ヴィヴィ。
現在、二人の軍団は国外に軍事力を展開中。合間を縫っての帰国である。
「こっちもいろいろあってね。で、カルタスは?」
モートルの指さす先は宮廷のバルコニー。
ひとり外の景色を見つめるカルタス。彼の目に映るのは帝国の巨大なマザー。ここはロボットの神がこの星に初めて降り立ったとされる場所。マザーとは、ロボットの神が作った母なる子宮。ここからロボット達が産まれ広がったとされる。数百年の時が経ち、ロボット達が自分たちで子孫を残せるようになった今でも、マザーは彼らの本尊なのである。
「皇帝陛下お成り~」
その声を聞き終わる前には、4人の軍団長は玉座に続く絨毯の両脇に並び頭を下げた。
2人の小姓とともに現れたのはショベル帝国現皇帝のクラウン。その後ろから付いてきたのは、「鉄団」団長のプロフェッサー・バン。
皇帝が座るのを確かめると、バンは階段を降り、アリストの横に並ぶ。
「うむ」
5人は顔を上げる。
一時の静寂の後、皇帝の声が宮廷内に響いた。
「カルタスよ、此度のオーナメン島における作戦、見事であった」
「ははっ。ありがたき幸せにございます」
「ヴィヴィ。西部戦線では、東部方面軍のレイリーに睨みを利かせているお陰で動きを抑え込んでおるようだな」
「はっ、我が軍の圧力により現在レイリーたちは聖地のあるクリノメタ海峡から動けませぬ」
そう語るヴィヴィは、先日スローズ大陸東にあるルームライ島沖で大規模戦闘を行ったばかりである。
「ヴィヴィよ、ご苦労であった・・・。モートル、お主の選りすぐりの兵共の訓練、どうなっておる?」
「はっ、『水泳部』にございます、陛下。部下共は今も厳しい訓練をいたしております。どうぞご安心を!」
「うむ、期待しておるぞ」
不定期に招集される御前会議・・・。これが開かれるということは大きな動きがある証拠。最後にアリストに状況を報告させると皇帝は咳払いをした。
すぐさま動く「鉄団」団長バン。彼が指さすと部屋の後方中空に世界地図が表示された。これは、現在の世界情勢。その地図が薄くなると代わりに別の世界地図が重なり浮かんできた。更にしばらくするとまた別の世界地図に入れ替わる。最後に3枚の異なる地図が横一列に並んだ。
「へ、陛下、これは!」
カルタスが息をのむ。
「この日を待っておりました、陛下!」
ヴィヴィの口調が興奮を物語る。
「戦いの先陣はぜひ我が軍に!」
モートルは、既に自分の軍団の活躍する場面を想像して疑わない。
「いよいよこの星が一つになるのか。面白い」
静かにつぶやくアリスト。
「現在、帝国と共和国の戦争状態は均衡を保ったまま。このままでは、ただの消耗戦に終わってしまう。そこで陛下は、帝国と共和国両方に外交関係を結び利益を得ているキンデ連邦と帝国の圧力に屈せず頑なに独立独歩を保つエレフ王国を巻き込むことにお決めになられた」
プロフェッサー・バンの声は小さく静かだったが、その言葉は部屋中に重く響いた。なぜなら、皇帝が起こそうとしているのは「世界大戦」だからである。
「すごいことになった」
これがアリスト達4人の共通した感想だった。しかし、それは想定されていたことでもあった。既に彼らの頭の中では自分たちの軍団の再編成が行われつつあった。
「まず手始めにキンデ連邦を突く。連邦への海路も空路も共和国軍の監視下にありエレフ王国経由では時間を要する。それに20年前に供与したロケットエンジン技術についてもそろそろ成果を回収したい。もし、エレフ王国が非協力的ならば彼奴らも叩く。まずは・・・」
その後、御前会議は数時間続いた。
2
会議が終わり、宮殿を後にする軍団長達。外には、軍団長を補佐する副軍団長や参謀が静かに待っていた。
「どうでした、軍団長?」
副団長のソネットがアリストを気に掛ける。彼女はアリストが長い会議が苦手なのをよく知っている。
「ぼくらは特に変わったことはないよ」
アリストが先に出ていたモートルに目を向ける。モートルは何やら部下たちに忙しく指示を出している。
「ぼくも『水の軍団』に入り直そうかな」
「怒りますよ、軍団長!!」
副長のソネットは突っ込みまでできないといけないようだ。
「留守番ご苦労だな」
後ろから肩を叩いたのはカルタス。「陰の軍団」の軍団長である。
「まぁ、毎度のことさ。カルタスもまた出撃とは忙しいねぇ」
「モートル軍との連携した作戦になる。お前が来たら必ずモートルがブチ切れるぞ」
「だよねぇ。今回はあきらめるか・・・・あっ」
「アリスト軍団長ぅ・・・・・。やっぱりオーナメン島に勝手に行って・・・・国内視察は噓だったんですね!」
「ば、ば~れ~た~~~~~~!」
逃げる軍団長を追う副軍団長・・・。何とも威厳の無い姿にカルタスの肩が小刻みに揺れる。この後アリストはソネットに軍団長としての資質を念入りに再教育された。
3
オーナメン島奪回から数ヶ月。ノアがオーナメン島から首都ルイセンに戻って暫くしたころ、ショベル帝国皇帝よりティアーズ共和国に国書が届いた。。
『捕虜交換の申し出』
共和国の首脳たちは帝国の意図を汲み取るのに時間を要した。しかし時間はない。なぜなら、この報はキンデ連邦の報道機関を通じて惑星全土に発信されたからである。
「何かある」ことは分かっていても、
「何があるのか」が分からない。
「ショウグン、クラウンの思惑が分かりません。去年、我々が捕虜交換を打診した際には向こうから拒絶したのに・・・」
「これは何かの大きな動きの先触れのような・・・いや、冷静に分析せねば。しかし、受けに立つのは癪ではありますな」
「ともかく、われらが戦士たちが戻ってくるのは吉報です。こちら側の不明者リストとの照合を急ぎましょう」
拒否する選択肢も理由もない。その日のうちに、捕虜交換が決まった。
日時:7月23日 12:00
場所:オーナメン島より南西1800㎞のストークス洋上
ショベル帝国側
共和国軍捕虜 250名(うち要治療者42名)
死亡者 85名(遺骨及び遺品)
ティーズ共和国側
帝国軍捕虜 348名(うち要治療者76名)
死亡者 101名(遺骨及び遺品)
4
ショベル帝国首都ナスバから南へ50㎞ほど下ると「陰の軍団」グラスコック駐屯地がある。
「ビービー、夕飯ができましたよ。あっ、またお酒ですか?食事時は飲むのをやめてください」
「酒ではない『カイリキレモン』だ」
「それはお酒の銘柄でしょ。全くぅ。ビービーはいつもこれ飲んでますよね。他にも美味しいお酒あるんでしょうに?」
「まぁな。だが、これが一番うまい。値段はちと張るがな。お前はまだひよっこだから、いずれ時が来たら飲ませてやる」
カムリは「やれやれ」と思いながらも手際よく配膳の準備をする。
この駐屯地には団員宿舎も十分に整っているが、ビービーは部屋に入ることをせず、外での野営を選んだ。当初、ビービーはカムリの分の部屋を頼もうとしたがカムリはそれを断った。彼自身もビービーと共に外で寝泊まりすることを選んだ。
食べ始めると二人は無口になる。カムリはちらちらとビービーの顔色をうかがう。ちゃんと食べてくれている。美味しいのだろうか。そう考えている間にも皿が空になる。すぐさまビービーの皿を受け取ると二杯目をよそう。これはいつもの流れ。
ビービーが二皿目に手を伸ばそうとした時、カムリが小さな声で呟く。
「誰か来ます」
カムリの察知能力は他よりも優れている。
「よく気づいたな。大丈夫、心配ない」
変わることなく食べ続ける。ビービーの「大丈夫、心配ない」の二つの言葉を聞くとカムリの警戒心もほぐれた。しかし、その誰かが表れた時、カムリの心は平静ではいられなくなった。
「カ、カルタス軍団長っ!」
目の前に現れたのはショベル帝国4軍団の一つ「陰の軍団」軍団長カルタス。カムリの属する陰の軍団のトップ。一兵卒のカムリには近づくことも話すことも許されない高位の者。
おたまを持った手で行った敬礼がカムリの緊張を物語る。
「探したぞ、ビービー」
やれやれと言った様子で話しかけるカルタス。
「宿舎にいるものと思って探してみても見つからず、さてはと思い外を探し回ったらこんなところに。宿舎には泊まらんのか?」
「俺には、こっちのほうが性に合ってる」
軍団長が来たのに相変わらずビービーは座って食べ続けている。
「お前らしいな。だが、若いのにはもっと優しくしてやったらどうだ」
カルタスはちらっとカムリを見る。
カムリには何が何だか分からなかった。ビービーが軍団長と気さくに・・・いや失礼な態度で話をしている。ありえない光景。
「お前がここに来たってことは、新しい任務か?」
「そうだ。お前にうってつけの任務だ。詳しいことは言えんがな。今回俺は動けんのだ。我が軍団からは少数の精鋭部隊を組んで送ることになった」
ビービーはカルタスの言葉から他の軍団との共同作戦だと直感した。そして難しい作戦だということも。
「潜入、誘拐、略奪、強奪、破壊、それとも・・・・」
「全て有りうるかな」
「・・・分かりました」
するとビービーは立ち上がり、
「その任務、謹んで拝命いたします」
今までの非礼を取り返すかのような見事な敬礼をしてみせた。
「軍団長、ついでにこいつも連れて行くがいいか?」
急に二人に見つめられて動けなくなるカムリ。
「お前に任せる。だが大事な若者だ。無理をさせるなよ」
カルタスはカムリの肩に手をのせると二人の元から去って行った。
何事もなかったかの様に再び食べ始めるビービー。皿が空になる。すぐさま三杯目をよそうカムリ。これはいつもの流れ。
しかし、今日はいつもとは違う流れがあった。カムリは何も聞かなかったしビービーは何も話さなかった。
一つだけカムリはビービーに黙っていたことがあった。それは、カルタス軍団長がカムリの肩に手をのせた時、「あいつを頼んだ」と、カムリにしか聞こえないかすかな声で言ったことだった。
読んでいただき、感謝です。ズボラウイルスに冒されています。慢性です。本当に遅くて済みません。そしてありがとうございます。次回こそは「洋上戦」を書きます。
12月28日(木)加筆しました。3場面の後に4場面を追加しました。