第3話「交える剣」
ロボ戦(ロボセンと読んでください)の3話目です。
今のところロボットしか出てきません。ロボット同士の戦いの話です。月一で更新出来たらと思います。気長にお付き合いしていただけると幸いです。
同小説は、pixivで同時掲載しています。pixivでは絵も載せています。
https://www.pixiv.net/users/35014452
1
「なるほど。上空からだと砂利の色の違いがよく分かったのか」
後方の憲兵隊に敵捕虜を引き渡すと、話はどうしてストラトスが敵の位置が分かったかに移った。
「さすが副隊長。そういうことです」
「つまり、一度掘り返されたところは他の砂に比べて色が変わるってこと?」
「そうだカロ。見ててごらん」
ストラトスは足元の砂利をつかんで皆に見せると頭のプロペラを回転させて浮き上がり、川の水で濡らすと戻ってきた。
「ケイ、こんな感じだ」
「おおっ、さっきより黒いぞ」
「ぬれると色が変わるのか」
「うむ。よく気づいてくれたなストラトス」
「いえいえ、隊長。偶然です」
「さぁ、私たちも戻るぞ」
指差した方向では未だ多くの同志たちが戦っている。
身体中に流れるオイルが再びふっとうし始める。
2
13時30分
前線はいよい市街地を抜け丘陵地帯にさしかかる。
ここを越えると下り斜面、ルドミラ港がよく見える。
前線では、メイサック分隊が交戦中。30分近くその場に足止めにされており、高さを活かした敵の攻撃を防ぐので手一杯だった。
「来てくれたか、よろづ隊。あの4mの丘が越えられない」
「状況は?」
「あそこに丘を越える街道が2本あるが、同時に攻めるには戦力が足らん。お前のところで半分持ってくれ!」
メイサック分隊隊長クリッパが端的に説明する。
「了解した。では、私たちが左を受け持つ。ダットとストラトスは道沿いにあるあの廃屋を占拠しろ。カロとケイは、そこを拠点にして一気に上り詰める。タリオンはメイサック隊と連携をとり、敵兵の動きを常に監視だ」
「さぁ、後から来た身として、今までの分を取り戻すぞ。ダットならどう攻める」
「もちろん俺は、ダートコース(未舗装)を行く」
「じゃあ、自分はオンロード(舗装道路)で」
ダットとストラトスが走り出す。
「ケイ、ぼくらも行こう」
カロは、再度予備の弾倉を確認する。
「ああ…。3、2、1、突撃ぃ」
ケイとカロも戦場に突進する。
よろづ分隊の合流で敵との戦力差は縮まった。足場の悪いところでも難なく動けるダットの攻撃は、敵の意表を突く。ストラトスは、地上にいたと思うと突然空中に浮かびあがり自在に飛び回り攻撃する。
この2人の動きにより、敵は広範囲に意識を集中しなければならなくなり、その分ケイとカロが動きやすくなる。
14時30分
よろづ分隊は、廃屋までたどり着くことができた。
「副長、丘まであとどれ位?」
「直線距離で500m。ケイ、カロ行けるか?」
「もちろんです!」
「僕たちに任せてください」
「うむ。一斉砲撃までに時間がない」
「ケイ、俺に乗れ!一気に頂上まで登りきる」
ダットが両足のタイヤを回転させる。
「なら自分とカロで2人を援護します。隊長、いいでしょうか」
「わかった。全員でダットとケイを援護する。よろづ歩兵分隊、皆の力を結集して勝利するぞ」
「運転はお前に任せたぞ」
ダットは体を仰向けにし3輪バイクに変形した。ピカピカと頭部のライトが点滅する。
ダットにまたがったケイは、銃剣を左手に持ちかえると右手でアクセルをふかした。
ブロロロロ…ブロロロロ……!
「いくよ」
ケイとダットは道なき道を一直線に走り出した。
動きを察知した帝国軍がすぐさま2人を攻撃する。
「いいねぇ、いいねぇ。あらよっと。ほらよっと。やっぱケイとの相性が一番いいらしい」
「俺だってたまらないぞ」
敵の攻撃を間一髪でかわして走り抜けていく。
「だがしかし、敵もさることながらだな。俺たちが行く方向を狙ってピンポイントで攻撃をしかけてくる」
「ああ、本当にその通りだ」
ケイが何やらハンドルのスイッチをカチャカチャ動かしている。
「ウ、ウインカーなんて出すんじゃないよ。やられたいのかぁぁぁぁぁぁぁぁい!」
「ごめ~ん。いつものクセがぁ!」
ケイは時々そういうことをする。
そうこうしているうちに、確実に目的地に近づいていく。
「いよいよだ、ここを越えるぞ!」
「うりゃぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ」
しかし、ダットが丘を上りきる直前、一筋の刃が2人を捉えた。
3
14時50分
「ふぅ~っ、びっくりしたぁ」
マントを身に着けた男が戦場には合わないのんきな声でつぶやく。
「急に出てくるの無しな。それに交通ルールも守らない奴は嫌いだ」
ダットは、その言葉に反応して立ち上がるが背中を負傷している。
「ダットは下がって。1対1なら何とかなる。周りを頼む」
ケイは、男から目を離さない。さきほどの攻撃が男の持つ剣から繰り出されたことを悟ったからだ。
ロボの姿に戻ったダットが一歩二歩と下がる…。
「逃がさないよ」
男が手を上がると2体の軍団兵がダットに襲い掛かる。
ケイの構えた銃が軍団兵を狙うが、その瞬間を狙って男が振りかざした剣から光刃が飛んできた。
とっさに避けるケイ。しかし、着地点を狙って2刃目が飛んでくる。
「んにゃろう」
態勢を崩しながらもケイは、銃を構えて男に向かって連射する。しかし、光刃自体がバリアになり男を守っている。
「こんちくしょう」
ならばと、銃を剣の形に組み替える。ホイケンガンのもう一つの使い方。
眼前の敵に向かって坂を駆け上がる。
「接近戦かい?」
振り下ろしたケイの剣に合わせて男も剣を振り下ろす。二度、三度と剣を交わすと男の方に余裕があることが分かる。四度目の攻撃は強く、ケイは後方に押し下げられた。
「じゃあ、俺のターン」
今度は、男の方がケイに迫る。
ビシッ!ガッ!
ケイが男の剣を受け止めた瞬間、もう一つの攻撃が彼を襲う。地に転がるケイ。
「まだまだこれからだよ。さぁ立とう」
立ち上がるケイに向かって再び男の剣が襲い掛かる。
ビシッ!ガッ!
一撃目を受け止めるケイ。しかし、別方向から二撃目が来る。
再び地に倒れ込むケイ。
「今度は、もう少し本気で行くから」
男はゆっくりとケイに近づく。が、一発の銃弾が間を横切った。
「大丈夫か、ケイ?」
「ありがとう、カロ。大したこと…ある。ダットは?」
「隊長たちに任せてある。あいつは僕らで倒すしかない」
カタカタカタカタ‼‼‼
男を近づかせないためにカロが銃撃する。そのすきにケイが接近戦を仕掛ける。
しかし、ケイの攻撃をかわした男は、カロに狙いを定める。
「カロ、そっちにいっ」
と見せかけて、男は反転した力をそのままケイに食らわせる。
パシン、ギャッ!
「うがっ!」
肩に傷を受けたケイがカロのところまで引き下がる。
「カロ、見たか?」
「見た見た。あいつ一度に二回攻撃している」
「昔やったゲームにそんな敵いたな」
「いたいた。あれ確か中ボスだった」
「…中ボスクラスか」
「何かごちゃごちゃ話しているようだけど、君たち、まとめていくよ」
男が剣を振りかぶる。
バシン!
両者の剣がぶつかる。男が剣を回転させ二撃目を繰り出す瞬間、ケイの後ろに付いていたカロの攻撃が入る。
カタカタカタカタ‼‼‼
「まだまだまだ」
背中のマントが攻撃を受け止める。執拗に男はケイとの距離を離さずに何度も剣を振りかざす。カロは、ケイのすぐ後ろで二撃目を防ぐのに必死だった。3人のロボット達はまるでダンスを踊るかのように戦場を動き回る。
いよいよ嫌がるケイは距離を取ろうとするが、その瞬間を狙って男の繰り出す光刃がカロのガンガラガンを破壊した。
背中を合わせるケイとカロ。
「あいつのほうが太刀筋が小さいんだ。懐に入られると何にもできない」
「なら、これはケイよりも僕の得意分野だ」
銃を破壊されたとは思われないようなカロの自信に満ちた表情。ケイには、その意味が分かる。
「行きますか?」
「行かれますか!」
「助っ人君の銃も破壊したし、どうする?まだ来る?」
男の正面でホイカンガンを構えるケイ。その少し後ろに立つカロ。
「さっきと同じ戦法じゃつまらんぞ」
パシィッ!
男の一撃目をケイが受ける。しかし、先ほどと違って受ける剣に力はなく握る腕と剣が浮き上がる。
「死ぬ気か?」
隙だらけになったケイの体を見ながら男は思った。しかし、そのまま剣を握りなおし、剣を回転し別角度から二撃目を繰り出そうとした。
その時、2人の隙間にカロが突っ込んできた。
「お前も‼‼」
バリバリバリバリバリ!
異様な音と火花が3人を包む。
ドリルに変化したカロの左腕が男の剣を食い止めた。
「うぉ――――――――――――――っ」
その瞬間を狙って、ケイが振り下ろした剣が無防備の男に直撃する。飛ばされた男は地面に転がった。
「ははははは、いいコンビだな!面白い」
男がゆっくりと立ち上がる。ケイの渾身の一撃だったが、瞬時にマントで防がれていたのである。
「隊長、もう時間ですよ」
先ほどの兵士たちが戻ってきた。
「敵戦車の列が丘を越えます。我らも下がりましょう」
周囲を見回すと、いよいよ共和国軍の戦列が丘を越え、戦車が次々に砲撃位置に着こうとしている。
3人の敵兵は、丘の上まで後退した。
「今日は、楽しかったよ。またどこかの戦場で会お…」
男が言いかけたとき、ケイが男に挑みかかる。
「おい、やめろ。離せ」
「このままじゃ帰さん!」
ケイは男との決着をあきらめていない。
「若い奴は、時間がたっぷりあるのにもかかわらず急ごうとする」
男は光刃を振り放つ。
それを剣で受け止めるケイ。
2名の横を戦車が横切っていく。
「だいぶ慣れてきた」
ゆっくりと距離を詰めるケイ。
剣先をケイに向け距離をとる男。
互いの足が大地を踏み込もうとした時、
ビキュ――――――――――――――――――――――――――――――ン‼
一筋の光弾が2人の間を割って入った。
この一発の光弾は、1台目の戦車の砲身を吹き飛ばし、2台目の車体を通過、そして3台目の履帯を破壊した。2台目の戦車からは煙が上がった。
よろづ分隊の引き連れてきた戦車は大打撃を受けた。
「周囲に警戒。戦車を守れ!」
すぐさまエクスティが指示する。
「水が差したみたいだな。俺はアリスト。チャンスがあればまたどこかで会うかもしれない」
そう言い残すと男は去っていった。
15時00分
ドン!ドン!ドン!ドン!ドン!ドン!ドン!ドン!ドン!ドン!
港の敵施設に向かってハテハチ戦車が一斉に砲撃を開始する。港は一面火の海になった。
洋上では、何十もの船が帝国軍の兵を乗せて離れていくのが見える。
頭上を味方の戦闘機が海に向かって飛んでいく。
海上での戦闘に切り替わる。
しかし、よろづ分隊は、戦車隊員の救出作業に追われていた。
16時00分
海上での戦闘も収まり、港の火災も軒並み鎮火した。共和国軍ニシール大隊は周辺の警戒をしつつ拠点の構築に入った。
18時30分
ニシール大隊司令部よりルドミラ港奪還作戦の成功がロボット戦士たちに伝えられた。
19時00分
ティアーズ共和国バティ大統領は、全国民にオーナメン島が共和国に戻ったことを宣言した。
4
同刻19時00分
ストークス洋上の輸送船。傷ついた多くの帝国軍の兵士たちの中にアリストもいた。
「あの光弾撃った奴…。俺の動きさえも計算に入れやがって…」
小さくなるオーナメン島を見つめながら考える。
「おい、あそこ!」
誰かが指さしたその先には、波間に消えそうな小さなボートの姿があった。
ほどなく、中にいた2人の帝国軍団兵が引き上げられた。
「ありがとうございます。もう追いつけないかと思いました」
丁寧な口調でゴンドラから降りてきたのは、まだあどけなさの残る少年兵。
すぐさま後ろを向いて少年と同じくらいの大きさの包みを受け取った。その後から強面の兵士が静かに降りてきた。
「ビービー、良かったですね」
少年は甲板の風の当たらない静かな場所を見つけると、彼がビービーと呼ぶ男に向かって座るように促した。
「何か温かい飲み物持ってきますね」
大きな包みを男の傍らに置くと、急いで船内に降りて行った。
一連の流れをじっと見ていたアリスト…。
「まぁ、何だっていいか」
アリストも船内に降りて行った。
しばらくすると少年が戻ってきた。
「ビービー、こんなのしかありませんでした」
「そうか」
ビービーは、飲み物を受け取ると黙って飲み干す。それを見てから少年は自分の分を飲み始めた。
「お前も座ったらどうだ」
「まだまだ元気ですよ。ビービーこそ、今日は敵の戦車を3台も撃破した功労者じゃないですか」
「大したことではない。本当ならあと5台は撃破できた」
「でも、そのお陰で撤収の時間をかせげた訳だし…。あっ、ビービー。いい加減僕の名前呼んでくださいよ。カムリですよ。カ・ム・リ!」
「いいともさ。お前がちゃんといっちょ前に戦果をあげたらな」
5
「ケイ、中に入ろう」
「カロか。今日は何もできなかった…」
「そんなことないさ。中ボスも撃退できたし」
「それさぁ。もっと周りに気を配っていれば…」
「それはケイの責任じゃないよ。隊長も『全ての責任はわたしにある』って言ってたし」
未だ至る所で煙がくすぶる港をじっと見つめるケイとカロ。
「副長も言ってたけど、あの光弾は、隊長の持つ電磁砲よりも強力で、かなりの遠距離からの狙撃らしいよ。誰も気づかない。今日はとんでもない連中に遭遇しすぎたんだよ」
「カロの言う通りだな。次に会うことがあったら今度こそだ。な!」
「そうそう。それに僕らには明日も任務がある。今はとにかく休もう」
オーナメン島を奪還した共和国軍。しかし、島には未だ敵残存兵力が潜伏し、危険が残る。そんな中、よろづ分隊に新たな隊員が加わる。次回「7番目の戦士」
お読みくださってありがとうございます。出張も多い仕事ですのでなかなか更新できない時もあるかと思います。「目指せ月一!」
誤字脱字あろうかと思いますが、ひとまずは完走を目標にしていきます。よろしくお願いします。
吉田 天候より