第11話「南の大陸」
こんにちは吉田天候と申します。ロボ戦(ロボセンと読んでください)の第2部の開始です。11話目です。舞台は、南の大陸キンデ連邦に移ります。新しいキャラクターも登場します。お楽しみに
第2部 buddy & best friend(相棒と親友)
1
7月30日
一面、波打つ漆黒のうねりに向かい一隻の船が進んでいく。時折、雲間から月の光が差し込んではゆっくりと立ち消えていく。ティアーズ共和国所属民間船よんふらわあ号は、南へ向かって直進していた。
甲板に設置されたテーブルを囲み、よろづ歩兵分隊は久々の余暇を楽しんでいた。
「もうすぐ赤道を通過する」タリオンが地図を指さしながら現在位置を示す。
「やっと4分の1ってところですかね」ダットがタリオンの頭の上から覗き込む。「何だかんだ、ここ最近は船での移動ばかり。たまには空の旅でもしたいもんでさぁ」
空路もあるのに海路を選んだ理由に不満なダット。これについては上層部の指示であり、分隊に選択権はないのである。
「まぁまぁ、今回は任務じゃないし、のんびりと船の旅でもしゃれこもうじゃないか。相棒、新しいゴーグルの調子はどうだい?」
「うん、すこぶるいいよ。遠方の視界が格段によくなってる」
「ちょうどいいや、あそこに光ってみ見えるの何だ?」ケイは先ほどから遠くの海面に淡く光る何かが気になっていた。
「やってみる」カロはぐりぐりとゴーグルのボタンを押して設定を切り替えている。
ピピピピ・・・
「あっ、あれ生き物だ。しか・・・一匹じゃないぞ、何百・・・もっとかも。おっ、めっちゃ跳ねてる!きれいだなぁ。赤いのとか、緑のとか・・・」
「で、何なんだよ」
「たぶん、魚だな。うん」
「そ、そうじゃなくってさぁ。もっとこう・・・」
「じゃあ、なんなんだい」
「も、もっと、種類とかいろいろ分かるんじゃないの、それで?」
「そんなん、分かるかあああああああああ!」
「まぁまぁ、落ち着け若いの。あれはおそらくダイオーイカの群れだよ」
タリオンが二人の間に入る。彼は知識が豊富で「先生」とあだ名されている。
「あれがダイオーイカですか。今、青く光りましたよ」
隊長とカードゲームを楽しんでいたストラトスとアクアも興味津々で話に入ってきた。
「自分も幼いころ見たことがありますが、あれほどたくさんのは初めてであります」
「どんどん、近づいてくる?」
カロのつぶやきが静かに闇に響き渡る。
「いや、俺達が近づいているんだ」
ダットが持っていたロボタミンAを一気飲みする。
船は光に飛び込んでいく。光が更に増し、周囲に広がる。
よんふらわあ号の足元の海中から淡く、しかしくっきりとした色が放たれる。赤、緑、そして青・・・。
交互に色を変えながら温かな光が船を包んでいく。
他の乗客も甲板に上がってきた。おそらく船長が気の利いたアナウンスでもしたのだろう。
「すてきだわ」
「きれいだ」
「田舎の母さんに教えてあげなきゃ」
同じ出来事を通じて異なる思い出や記憶が各々に刻まれていく。それは、よろづ歩兵分隊の7人も同じ。
ダイオーイカの群れが過ぎ去り、乗客たちも船内に戻り、甲板はよろづ歩兵分隊だけとなっていた。
「今、赤道を通過しました」
「よし、右半身は北半球、左半身は南半球、成功っ!!!」
「自分は、左半身は北半球、右半身は南半球、成功であります!!!」
ケイとアクアはこれがやりたかったらしい。そんな二人をダットとカロがゲラゲラと笑う。
「さぁ、そろそろ戻るとしよう。3日後の昼には、キンデ連邦の科学都市ミラーに到着する。季節は秋になるぞ。風邪には気を付けるように。以上」
エクスティは、隊員たちを先に部屋に戻した。残ったのは隊長とタリオン副隊長。
「周囲(海中)の様子はどうだ?」
「特に変化はありません。何かを設置した様子も見られませんでした。やはり、エスパ司令官の仰ったように帝国はキンデ連邦への侵入を画策しているのでありましょうか?だとしたら、侵入経路は大陸西部の都市アブソーバーか、もしくはナンバーのはず。連邦も一枚岩ではありませんし」
「目的地は科学都市ミラー。あそこには、軍事転用できる技術や理論が集まっている。ここらで共和国軍から先手を打ちたいものだ」
2
キンデ連邦のあるミセル大陸は、惑星ファクシーの南半球に位置する大陸である。南半球には、他にもティアーズ共和国領であるラーム大陸とエレフ王国の統治するエレフ大陸があり、その中でもミセル大陸は最も小さな大陸である。
7月31日
ーデンスタ研究所 301号室ー
「お帰りマーチ。今日も学校お疲れ様」
「ただいまアルト。あーっ、疲れたぁ。今日も休み時間に子どもたちと追いかけっこしたから・・・」
「そりゃ大変だったね。ねぇ、先生の仕事って楽しい?」
「すっごく楽しいわよ。子どもってすごいの。わたしの予想をはるかに超えることを言ってくる。毎日驚くことばかり・・・。でも今は、こっちの研究も興味あるし!よしっ、博士遅くなりました。三次元データの再統合手伝います」
「お帰りマーチさん。少し休んでからでどうだい?」
奥の部屋から声がする。デンスタ研究所のコンポ博士。アルトやマーチの先生である。
「3軸の接合が上手くいかず、ズレが生じていて、まだ少しかかりそうなのですよ」
奥からコンポが戻ってきた。かすかだが断続的に彼の足元から発せられた低音が床に反射し部屋に響く。博士は浮いている。自らの動かない脚を改造し浮遊装置を組み込んだためだ。
「分かりました。わたしの方でもやってみます。位置固定は星の自転も考慮しないと上手くいきません。来月の実証実験まで時間がないもの。やってみせますよ」
マーチが腕を曲げ、力こぶを見せる。
「マーチ、来月25日の実証実験までプログラムを完成しないといけない。テスター(模擬ロケット)への組み込み準備ができ次第自分も手伝うよ。博士、テスター用の複合材の加工に時間がかかっています。もう少しお待ちください」
「うむ、どれも大事な行程です。一歩一歩確実にこなしていきましょう」
「はい。博士は更にロケットエンピⅡの打ち上げにも関わっていらっしゃる。後は我々にお任せください」
アルトは胸を叩いた。
「あのね、アルト、今『手伝う』って言ったじゃない。実はお願いがあるのよ。来週、小学校でセイガン公園へ遠足に行くんだけど下見と買い出しを手伝ってほしいのよ」
「行って来たらいいじゃないですかね。アルトさんは根を詰めすぎると日付が変わったのも分からなくなってしまいますし・・・。気分転換も大切です。それにセイガン公園は『誓願』という意味があり、平和への誓いを立てて作られたものなんです。アルトさんには合っていると思います」
コンポ博士が気を利かせた。
「ありがとうございます、博士。いいよ、マーチ。自分もそのセイガン公園へ行くことにしよう」
3
7月31日 23:00
ーキンデ連邦、都市ポンプから北に40kmにあるソウダ湾内の砂岩ー
「お待ちしておりました隊長」
岩礁の隙間からすっと現れた男に2人が近寄る。
「うむ、これで3人・・・。あいつは?」
「ここにいます」
防風林の陰から少年の声。小さな影が3人の陰に重なる。
「全員揃ったな。他はどうなってる?」
「ほとんどのカプセルが上陸できているようです。各々行動を始めております。確認した中でも50はいます」
「そうか、8割といったところか・・・。すぐさま合流ポイントに向かう。作戦内容はそこで話す」
「小僧、特に困ったことは無かったか?」
「・・・はい、問題ありませんでした」
カムリは血糊の着いたナイフを懐の奥にしまった。
「・・・そうか。なら良い」
ビービーはそれだけしか言わなかった。
4人は東に向かって歩き出した。
4
8月1日 01:00
ーキンデ連邦、首都ミセル 国境警備隊 本部ー
「隊長、これを見てください」
ボーダーガードの副隊長の1人イオンがトロネードに報告書を手渡した。
「ナンバーで漁船が沈没、死者2名・・・。ポンプでは漁船が沖で漂流。乗組員は行方不明・・・。隣接する街道では車の盗難が2件・・・。食べ物の盗難が複数件・・・」
「隊長・・・」
「ナンバーからポンプに移動して・・・目標は科学都市ミラーか!海運局とも連絡を取り、情報を収集・整理しよう。侵入者がいるのなら動きを調べたい。情報局には、些細なことでもいいから関連するニュースを集めてもらうようにしてくれ」
「はい、不法侵入は犯罪です。特にそれが帝国軍や共和国軍なら適切に処罰しないといけません」
「そうだ、この国の平和は守らなければならない。国民の拉致、内政干渉、国民の分断、破壊工作・・・。本当の敵というものはなかなか見えないものだ」
「もし侵入者なら十中八九帝国軍だろう。国際問題だ。ひとまず、テレイン首相に報告するとしよう」
トロネードはつぶやいた。
みなさん、いかがでしたか。久々の更新です。お読みくださってありがとうございます。出張も多い仕事ですのでなかなか更新できない時もあるかと思います。
いよいよ第2部のスタートです。
第2部の副題は「buddy & best friend(相棒と親友)」になりました。どうぞ、よろしくお願いいたします。吉田 天候より
誤字脱字、軍関係の設定がばがばお許しください。
pixivでは絵も載せています。(7月中は更新できません。トホホ)
https://www.pixiv.net/users/84991722