第10話「健康診断」
こんにちは吉田天候と申します。ロボ戦(ロボセンと読んでください)の10話目です。今回はめまぐるしく場面が転換します。そして、これにて1部が終わります。新しいキャラクターも登場します。お楽しみに
1
7月23日
18:30
長い一日だった。
仲間が戻ってくる期待と不安。
喜びから一転、敵の奇襲、憎悪と怒り。
太陽が沈み、空と海の色が溶けあっていく・・・。
「人員を救助後、動けないヘリアーは投棄。負傷者は戦艦テレコンに収容、急げ」
全体に指示が飛ぶ。
敵撤退後、被害が軽微だったよろづ歩兵分隊の乗るヘリアーは、巡洋艦ソナー201番艦に収容された。しばらくするとよろづ分隊には航行不能に陥ったヘリアーの自沈命令が下された。
「我々に任されたのは3隻、燃料を回収後、機関部を爆破。速やかに沈めるように」
タリオンが説明する。
「ここに爆薬の設置場所を示してある。おそらく大きな穴が開くだろう。あと、なるべく海は汚さないように。以上」
爆薬の設置図がカロに手渡された。
「帰島が遅くなるな」
ケイがため息をつく。
「2日は足止めをくらうのを覚悟しないと」
配付された爆薬を荷台に詰みながらカロが答える。
「それに、隣のソナーだが、あれもちゃんと動くのだろうか」
カロ達が見つめる先には、もう一隻の巡洋艦ソナー203番艦。暗闇の中でも各所より立ち上がる黒煙が視認できた。
「ところでアクアは?」
2人が働いているのを横目に見ながらダットがボロタミンA(微アルコール)を飲み干す。
「そう言えば隊長も居ない・・・副隊長何か知ってます?」
カロが手を止めた。
「アクアと隊長は司令官に呼ばれて、今は戦艦テレコンだ」
2
同時刻
戦艦テレコン第一艦橋内
「(はぁはぁはぁ、どきどきどき、自分なにかしでかしちゃったでありますかぁ)」
「落ち着けアクア。先ほど私に報告したことをもう一度エスパ司令官に伝えるんだ」
エクスティが優しくアクアの背中を叩く。
「エクスティ隊長の話によると君が見たのはこれで合っているか?」
ティアーズ共和国西部方面軍司令官エスパが机上のモニタに映し出された画像を指さした。
-アポラン潜水艇-ショベル帝国の潜水艦
「はい、これで合っているであります」
「数は?」
「あっ、はい、15・・・・いいえ20はありました」
「最後に、進路は?」
「み、南です。南方向に進んでいるのが見えました」
「・・・そうか、よく分かったよ。二人とも報告ご苦労」
「はっ、失礼いたします」
エクスティとアクアは部屋を出た。
「キンデ連邦・・・」
エスパの脳裏に浮かんだキーワード。
「クラウンの目的は何だ?キンデ連邦との同盟?密約?技術?それとも・・・。どさくさに紛れて、かつ危険を冒してまで連邦の領海に入るつもりならそれなりの理由があるはず。いや、わたしだけの判断は危険だ」
エスパはすぐさま共和国本国に暗号文を送ると幹部を集め今後の対応を指示した。
1.36時間以内に自沈作業を済ませ、オーナメン島に戻ること
2.損傷したソナー203番艦は修理を断念しここに投棄すること(特殊作業による自沈)
3.ソナー203番艦乗組員の半数は201番艦に、残りの半数と帰還兵は戦艦テレコンに収容すること
エスパの言う通り、ロボット戦士たちは36時間以内に全作業を済ませ、オーナメン島に向け出発した。
3
暗く狭い場所。周りは堅牢な装甲。精密な機械で覆われている。
ここはアポラン潜水艇
「何日たっただろうか」ふとカムリは思った。自然の中で自由に育った彼には手が届くところ全てに機械や計器類がり、動きを制限される狭い潜水艇の中にいるのが苦痛だった。
耐圧ガラスの外の景色にも飽きた。はじめは時折見える生き物や不思議な光景に目が奪われもしたが、そう思えたのは出発して数時間までだった。
カムリの乗る潜水艇には、水の軍団の乗組員3人とビービーとカムリ、他の陰の軍団員2人の合わせて7人が乗り込んでいた。誰一人私語もなく「現在水深〇m」「現在〇〇通過」と必要最低限の言葉だけが静かに響いていた。軍団間同士の会話も皆無だ。そもそも帝国には光、水、火、陰の4軍団があるが、互いに競うことはあっても友好的な関係を築くことはなかった。いや、そのような必要はない。競うこと・・・それこそが帝国軍の強さの象徴なのだから。
ビービーはカムリのはす向かいに座っているが目を合わせることも言葉を交わすこともなく微動だにしない。ビービーから話し出すこともなければカムリが手伝いをする場面もない。ビービーと話せないこと、何よりもカムリにはそれが辛かったのかもしれない。
「あと1時間で敵領海に入る」
水の軍団員の操舵手が後ろにいるビービー達に振り返る。敵とは「キンデ連邦」のことだ。
「30分後にカプセルを射出する」
ビービー達4人は静かに動き出した。
陰の軍団員達が後方の梯子を降りる時、「達者でな」と、小さな声が聞こえた。カムリにはそれが意外だった。
梯子を降りると4つのカプセルが準備されていた。
ビービーがカムリに近づく。
「これからは1人での行動になる。カプセルの動きはほぼ潮流任せになる。集合地点は分かるか?」
「はい」
「あいつら(水の軍団)の話だと予想上陸地点はこの3か所だそうだ。それぞれの上陸地点からの地図を頭に入れておけ。どんな手を使ってでも合流しろ」
カムリは強く頷いた。
ビービーは他の軍団員と握手を交わすとカプセルに入っていった。
続いてカムリもカプセルに入る。
「はやくビービーと合流するんだ」
静かにカプセルのハッチが閉まる。
しばらくすると警告音が鳴り響いた。間もなくだ。
「南無三・・・」
カムリは手を合わせた。
音もない深海に4つのカプセルが発射された。
4
ケイ達はオーナメン島に戻ってきた。
帰国のニュースは共和国中に生放送で中継された。
島では帰還兵の出迎えで大騒ぎだった。
出迎え式が終わるとケイ達よろづ歩兵分隊は、自分たちの野営テントに戻って来た。
「キューッ、キューッ」
キチノスケが恋しそうに出迎える。
「ただいま、キチノスケ」
「良い子にしてたかキチノスケ」
ストラトスが頭を撫でる。
「はぁ~っ、やっと戻ったであります」
「式典長かったな。特にパンダ隊長の話」
ダットが早速冷え冷えのボロタミンAを飲み干す。出航前、大量に冷やしておいたのだ。
「でも話の半分は感涙にむせて話になってなかったよ」
ストラトスがキチノスケの水とエサの残量を確認し取り換える。
「みんな聞いてくれ、俺達が居ない間に基地ベースが完成したってさ。他の分隊も少しずつベースの部屋に移ってるって」
ケイが興奮して入って来た。
よく見るとケイ達の設営している野営テントの周りにあった他の分隊のテントの数が少なくなっていた。
「さすがに奪還作戦以降、ずっとテント暮らしだったからね」
カロもテント暮らしには飽きていたのだ。
「4人部屋かな、2人部屋かな」
ストラトスの期待も膨らむ。
「カロ、君に荷物が届いているぞ」
少ししてタリオン副隊長が戻って来た。
カロは荷物を受け取ると隅の小テーブルに下がっていった。
「副長、我々はいつベースに移動できるでありますかな」
「副隊長、俺は2人部屋がいいです」
「新しい部屋はきっと寝心地がいいであります。あー楽しみであります」
「はやく教えてください!」
「キューッ、キューッ」
隊員たちは各々の欲望をタリオンに要求する。
タリオンには何の権限もないのに。
ケイ達を尻目にカロは荷物の梱包を解いていく。箱の上に貼られた封筒に気づくとそれをはがしてそそくさと胸元にしまった。そしてゆっくりと箱を開けた。
「そう言えば相棒、何の荷物だった?」
ケイが後ろから近寄ってきた。
「・・・・うん」
しかし、カロはちゃんと聞いていない。
「うわーっ、新しいゴーグルじゃん」
ケイの言葉にみんなが集まってくる。
「カロのゴーグルも壊れたままだったからな。『はやく新しいのにしろ』って言ってたんだよ」
ダットが安堵する。
「これめちゃいいやつじゃないか」
ストラトスが箱に書かれた説明書きを読む。
「はやく着けてみようぜ」
急かすケイがカロの壊れたゴーグルを外す。
箱からゴーグルを取り出すと、カロはくるっとそれを眺めまわした。
「はやく、はやく」
「着けろ、着けろ」
「はやく、はやく」
「着けろ、着けろ」
周りがうるさい。本当にうるさい。
しかしカロの耳には届いていない。
ゆっくりと新しいゴーグルを着けてみる。
カチャ
ゴーグルのガラス面から出た光がフレームを通りカロの耳に到達する。
ピピピ
接続が完了した。
「いいじゃん」
「似合います先輩」
「色合いも前のより合っているかも」
「いいではないか」
「キューッ、キューッ」
嬉しそうなカロ。何度もゴーグルを上げたり下ろしたり・・・。鏡で確認する。どうやら満足なようだ。
そこへ、隊長が戻って来た。戻るなり、
「よろづ歩兵分隊に告ぐ・・・」
隊長の低い声が響く。
「これよりよろづ歩兵分隊に健康診断を命ずる。以上」
「け・ん・こ・う・し・ん・だ・ん?」
唖然とするケイ。基地ベースに移動できるものと思ったからだ。
「そうだ、お前も入隊してしばらくしてやったことあるだろう。もうすぐアクアの6か月診断がある。また、タリオン副隊長の15年目診断、ダットの5年目診断、来年にはケイとカロの3年目診断も控えている。なので、我々分隊全員でまとめて定期健康診断を行うこととなった」
「それって隊長、ちょっとした休暇をもらえるってことですか?」
ダットが嬉しそうだ。
「そうだ、ここでは詳しい検診(健康診断の略)はできないのでオーナメン島を出ることになる」
「じゃあ、一度本土に戻れるってことですか?」
ケイの瞳が輝く。
「できれば、首都ルイセンで検診を受けたいな。久々に街で遊びたい」
ダットがつぶやく。
「わたしは聖都ラグリマスがいい。もう何年もマザーにお目通りしていない。心身ともに清らかになりたいものだ」
タリオンにも願いはあるのだ。
「ゴホンッ、皆には悪いが我々が向かう先はキンデ連邦だ」
「えっ、キンデ連邦?」
「そうだ、キンデ連邦北部にある科学都市ミラー。そこに我々共和国の出島がある。そこで検診を受ける」
5
ーキンデ連邦 科学都市ミラーにあるデンスタ科学研究所ー
研究所にある研究室の一つ、301号室
「ただいま」
「こんにちは」
|235 389 651|
|729 442 674|
|576 409 105|
「・・・・・・・・ああ、お帰りマーチ。やぁバネット。今日は学校休みかい?」
出力された観測データを読み終えると青年は振り返った。
「今日は午前授業よ、アルトお兄ちゃん。だからマーチ先生と遊びに来たの」
「そうか、もう昼か・・・」
「そうよ、お昼にしましょ。買ってきたの」
マーチが促すとアルトはテーブルに着き3人でお昼を並べる。バネットがせわしく飲み物を用意する。テーブルに並べられた数は4つ。
「コンポ博士は?呼んでこようかしら」
マーチが席を立とうとする。
「博士は朝から患者さんの義手の取り付け作業をしている。だから、しばらく来られないと思う」
アルトが説明する。
「いただきます」
バネットが座ると3人でお昼を食べる。
「ねえアルトお兄ちゃん、食べ終わったら研究所の顕微鏡でお月様見ていい?」
バネットがおねだりする。(*本当は顕微鏡ではなく望遠鏡)
「今日は無理だな」
「何でぇ、この前は見せてくれたのにぃ。それに今日は天気もいいし」
「いじわるで言ってるんじゃないのよ。今日は見えない日なの」
マーチが助け船を出す。
「新月だからね。来週なら観察できるかもしれない。代わりに今日は惑星シミュレーターなら使える。この前作ってみたんだ。良ければ準備しておくけど」
「それがいい。そうする」
見れない理由がよく分からなかったが、シミュレーターという新しい遊びを示されバネットの興味が移っていた。
「ごちそうさま」
約束通り、食べ終えるとアルトはバネットのために隣の部屋にある惑星シミュレーターの準備をした。
バネットは深い椅子に座りヘッドホンをつける。アルトがスイッチを入れると椅子の周囲に天空の星々が映し出された。
バネットの体がぴくりと動く。
「さぁ、いってらっしゃい」
バネットが楽しんでいるのを確かめるとアルトはマーチの所に戻ってきた。
「さっきの話の続きだけど、患者さんって軍団員?ロボ戦?」
マーチの顔が曇る。
「分からない。でも、戦争で負傷したらしいことは聞いた。現役の兵隊と決まったわけではないし、そもそも入国できない。博士は帝国出身だとか共和国出身だとか、出自で差別したりしない。助けを必要とする者がいれば博士は絶対に見放したりはしない。好戦的な者を除いて・・・」
アルトのコンポ博士に対する信頼は絶大なものである。マーチもそれは分かっていた。
「でも心配だわ。これから戦禍を広げようとするような人たちがここに来ないとも限らないし・・・。帝国と共和国の戦争も終わる気配もない。ここはいつまでも安全であってほしい」
「そうだね。自分は今の研究でこの星のロボット達が戦争をしなくてもよい方法を探す」
アルトは立ち上がると太陽のある方向を見上げる。まぶしい光を指で遮る。指の隙間を通った光がアルトの顔を照らした。
「今日は見えないけど、あの空のどこかに月がある。そして第二の月・・・。きっとあそこにこの星の秘密を解く鍵がある!」
第1部完
みなさん、いかがでしたか。久々の更新です。お読みくださってありがとうございます。出張も多い仕事ですのでなかなか更新できない時もあるかと思います。
これにて1部が終わりました。
次回第2部の副題は「bestfriend」です。親友とはどういうことでしょうか。不定期更新お許しください。吉田天候より
誤字脱字、軍関係の設定がばがばお許しください。
pixivでは絵も載せています。
https://www.pixiv.net/users/84991722