踏切おばけ
「えっ……?」
セーラー服を着たショートカットの少女が、私の隣をふわりと走り抜けて行った。
私はとっさに手を伸ばす。
「駄目!」
だって、そっちは踏切だから。
今まさに電車が通ろうとしているのに。
指がその子の腹をかすめる。
電車が通る。
「うそ」
少女は消えた。私の目に映るのは、ただただうるさい音を立てて電車が横断している光景だけだ。
血の赤は無い。
地面は強すぎる日差しに色が飛んで、向こうの海と同じように、妙に青々としていた。
電車はいなくなって、踏切が開いた。
恐る恐る覗き込んでも、少女はいない。
気のせいだったのかな……。
でも気のせいにしてはやけに生々しかった。ふわりと広がるスカートや、男子が見たらコーフンしちゃいそうな頸、真っ黒な髪の毛とか。
風も感じた気がした。それに乗ってふんわり海の匂いがして。
顔は見えなかったけど……可愛いんだろうな。
踏切を渡り終えてから気がついた。
あれっ、もしかして幽霊⁉︎
私幽霊見ちゃった?
うーむ、幽霊を見たかって言われると、気のせいかもって思っちゃう。
なんとなく振り向く。
するとセーラー服を着たショートカットの可愛らしい少女が、こっちに向かって笑いながら走ってきた。
そして踏切の中に入って消えた。霧のように。
ウソウソ……気のせいなんかじゃなかった。
幽霊だ。これは。
そー言えば、後から聞いた話。あの踏切から見える海で、昔溺れて死んじゃった女子高生がいたらしい。
その子もセーラー服を着てショートカット。まあそんな子はいっぱいいるんだけどさ。
セーラー服を着たまま死んでいたから、自殺なんじゃないかって噂もあったみたいだ。
ちなみに踏切で事故は起きていない。
真偽のほどは分からないけど、私はその子だって思ってる。
だって海の匂いがしたから。
自殺かどうかも分からないけど、あの子は笑っていた。
凄く綺麗だった。
あの後一回も会ってないけど、次こそは会えるかな。