綺麗な花には棘がある。
轟音が鳴り響き、思わず俺はしゃがみこんだ。
(・・っ!なんなんだ!これ!)
周りが闇に染まり、身体がふわっと浮く。
「うわあああ!」
声を上げるがどうしようもできず、なすがままにされる。
地面に足がついたかと思えば、しゃがみ込んだ俺のすぐそばに、さっきの女がいた。
笑顔である。いや、笑顔と言うには禍々しすぎる。
釣り上がった目、裂けた口。
そして髪の毛だと思っていたものは、大量の針だった。
「なっ、、、!なんなんだっ、、」
怖い。
初めて感じる、生命の危機という恐怖が、ほんの数歩先の未来に見えるのだ。
あと少し、少し動けば、何か恐ろしいことになるのではないか。
喉はカラカラになり、冷んやりと汗が伝う。
(怖い、、怖い、、。どうしたら良いんだ、、)
瞬きもできないほど、緊張と恐怖でいっぱいだった。
「あなた、私に笑い返してくれたわね。
私に微笑んでくれたわ。
だからあなたは、私のものよ。
ああ、、嬉しいわぁ、、。
私と一緒にいきましょうねえええ!!」
ねっとりするような声で喋ったからと思うと、頭の針がこちらに伸びてきた。
かぎ針状になっているらしく、制服のあちこちにひっかけられる。
「やっ、、やめっ、、」
「ねぇぇ!行きましょうねぇぇ!」
声は全く届かないらしい。ずりずりと徐々に身体を引きずられていく。
「何を。しているのか。」
急に頭上から声がした。
「、、え?」
顔をなんとか上げると、夕日に透けている、銀髪。
「さ、かき、、さん?」
危ないから逃げろと言おうとした瞬間、
びゅんっと顔の横を風が切った。
「ぎゃあっ」
引っ張られていた方向から悲鳴が聞こえ、身体の自由が効くことに気づく。
起き上がってみると、女から伸びた針は千切れて飛んでいっていた。
彼女が、蹴りで払ったのだ。