綺麗な花には棘がある
(疲れた…)
あの後、二人と一緒に食事をしにハンバーガーショップへ向かった。
転校生の黒髪を銀髪と言い出した俺に大分心配をしていたようだったが、食事をしているのを見て安心したらしい。
彼女を見て体調が悪くなったのも、銀髪に見えたのもすべて気のせいだ。
色々なことで疲れていたんだろう。きっと。
人の心配をするのは苦手だが、友人に心配をかけるのはありがたい反面申し訳ない気持ちになる。
人と人とが関わると必ず何かしらの感情が生まれる。俺はそれがひどく苦手なのだ。
それを知りながらも友人としていてくれる二人には感謝をしている。伝わっているかは微妙だが。
結局そのままだらだらと話を聞いていたら夕方になってしまった。
電車通学である彼らと駅前で別れ、ぼんやりと散歩をしながら自宅に向かう途中、橋の上からふと川の方に目をやった。
いつもならこの時間、河川敷で遊んでいる小学生や、ランニングをする人などがいるのだが今日は珍しく誰もいないようだ。
そのまま川辺に目を滑らすと、女が1人立っていることに気づいた。
白いワンピースを着て、夕陽に照らされ、まるで1枚の絵のような綺麗な女だった。
(今日はよく、見た目が良い女を見る日だな。)
それは女運が良いのか、悪いのか。
しかしあまり人間に関わりたくない自分からすれば、
どっちだって関係ないことだった。
そんなことを考えながら見ていると、不意に女がこちらを見て、目がばっちりと合ってしまった。
女は少し驚いたような顔だったが、にっこりとこちらを見て微笑みながら手を振ってきた。
それに次は自身が驚いた。わざわざ目があって微笑んで手まで振ってくるなんて。
(愛想が良い女なんてろくな女はいない。帰ろう)
完全に偏見なのだが。
もはや綺麗、などとは思えず、立ち去ろうとした。
「ねえ!」
慌てたような女の声に引き止められる。
不思議なことに、遠目に見えるのに関わらず声ははっきりと聞こえた。
「ねえ。あなた。こっちにきてくれない?お話しましょうよ。」
相変わらずにこにこしながら、手招きをされる。
「お断りします。」
佐野なら喜んでいくのであろうが、俺には関係ない。
急に話に誘ってくるなんておかしい。
「ちょ、ちょっと!ひどいじゃない...」
女が急に泣き出しそうな顔でこちらを見、両手で顔を覆う。
なんで女はすぐに泣くんだよ。
女に泣かれるのは苦手だ。恐怖といっても差し支えない。
「...急ぐので帰らせてください。」
と言うと、女が勝手に喋り始めた。
「冷たい人。私の恋人もそうだったわ...。
ねぇ、あなた。少しでも悪いと思うなら、私に微笑みかけてくれないかしら?」
よくわからない取引だが、それで帰らせてもらえるなら、と
なんとか表情筋を動かしてみた。
(微笑みってなんなんだ...)
すると彼女は顔を覆っていた手を外し、
にやり、と笑った。さっきまでとは違う、悪寒を感じる笑顔。
「ああ。うれし。やーっと、ツカマエタ。」