嵐の前の静けさ
ー目を開けると、そこには見たことのある天井があった。
(俺は、なんでここにいるんだ?)
そう。ここは保健室。
体調を崩すなり、怪我をするなりしないと用がないはずの部屋。
(っつ..。頭痛い...)
後頭部を押さえながら起き上がり、状況を整理しようとする。
(...そうだ。思い出した。)
銀髪の、転校生。
(目が合って、怖くなって...)
(なんで俺、怖いって思ったんだ?)
確かにきりっとした少女ではあった。
しかし、気を失うほどの怖さがあったのか?
恐ろしいほど綺麗という例えはあるが、そんなことではなかった気がする。
何か、胸の奥の底を掻き回されるような、
全てを見透かされるような。
しかし、彼女とは初対面のはずである。
(どこかで会ったのか?)
思い悩んでいると、いきなりカーテンがあく。
「お、起きてるじゃん。」
白衣を適当に着崩してだらっとした服を着ている男が笑顔をむける。
まるで保険医には見えない。
「先生...。声くらいかけてください。」
「起きたならそちらから声かけてくださーい。」
子どものような言い返し方にイラっとしながらもベッドを降りる。
「急に倒れたんだって?お前貧血とかあった?」
名簿を見ながら保健室の主、結城 朔夜は尋ねるが、首を振った。
「貧血じゃないです。急に苦しくなって、目眩がして、気づいたらここにいましたよ。」
服装を整えながら答えると
「...ふーん。」と適当な返事が返ってきた。
「部活疲れですかね。今日はちょうど休みなんで、帰ったら寝ます。」
「ああ。担任が、体調悪かったらそのまま帰っていいってさ。」
その言葉に少し悩んだが、
「いや、どうせ半日なんで、教室帰ります。」
佐野が騒いでそうだし。
...転校生も気になる。
「まあ、無理するなよ。」
「たまには先生ぽいですね。」
「俺の仕事増えるじゃん。」
優しい言葉に感心した俺がバカだった。
「じゃ、失礼しました。」
「はーいよー」
後ろを向いたまま手をヒラヒラ動かす保険医を後に、教室へと向かう。
「榊 葛葉...か」と保険医が呟いたのを知る由もなく。