嵐の前の静けさ
席につき、窓の外に目をやると、春の穏やかな日差しの中で桜が舞っているのが見える。
(いい天気だなあ...)
込み上げてくる欠伸を噛み殺しながら、周囲をみる。
ふと、隣の席には名前が貼っていないのに気づいた。
(隣は空席?空席なんてあるのか?)
不思議に思いながらも、もともと他人に興味はない。
そんな疑問は、教室にはいってきた教師の声で消えてしまった。
「えー、席につけー。」
ざわめきながらも各自席につく。
遠くで佐野が手を振って来たため、しっしっと追い払っておいた。
「はい。おはよう!今日からこのクラスを担任する、
原田隆二です。よろしく!」
いかにも体育会系という風貌の彼はまだ若く、女子からも人気のある教師だ。
意外にも彼は、文学を愛する国語教師なのだが、見た目から体育の教師だと誤解されることも少なくない。
「わーい!ハラセン担任とかラッキー!」
「こら佐野!ちゃんと原田先生と呼びなさい!
お前は小学生か!」
教師に怒られている佐野をみんなが笑った。
(相変わらずうるさい奴だな...)
そんな佐野に呆れながら、話の続きを待つ。
「はあ。最初から疲れた..。2年なんだから落ち着きなさい。転校生も外で待ってるんだから、待ちくたびれるだろ?」
転校生、の言葉にクラスがまたざわめきたつ。
「静かにー!入ってもらうから、ちょっと落ち着け!」
クラスが少し落ちついたところで、
「じゃあ榊さん。入って来てください。」
ガラっとドアがあき、
「失礼します。」
という、凛とした声が響く。
入ってきた転校生を見て、クラス中がほう...と感嘆の声をもらしたようだった。
声の主は、本人もまた凛とした雰囲気を持っており、すらっとした長身。顔もきりっとしながらも大きな目、すっととおる鼻筋、白い肌と整っている。
間違いなく美人の部類に入るだろう。
各所で、「きれい...」「美人すぎないか?」と称賛の嵐である。
確かに、美人だろう。しかし、俺には気になることがあった。
(髪の毛が、銀髪?なのか?)
背中まである長い髪をさらさらと揺らしながら歩く彼女は、銀髪にしか見えない。
(ハーフとかか?顔はどう見ても日本人だが..)
訝しげに見ていると、正面を向いた彼女と、
目があってしまった。
慌てて逸らそうとするが、逸らせない。
まるで彼女に吸引力があるのかというほど、目が離せないのだ。
俺は、人間に興味を持つ自分に驚いたし、なんとも言えない恐怖が胸を包んだ。
彼女もまた、少し驚いた顔で俺を見ている。
(怖い..なんだあの人..)
背中に冷や汗がつたう。
何故、俺は彼女がこんなにも怖いのかわからない。
(あんな知り合いなんていない...)
誰だ、なんでだ、なんで俺が...
意識はここで、ぷつん、と切れてしまった。