嵐の前の静けさ
目の前で繰り広げられる現実味のない光景に、呆然としていた。
「これ、夢だよな、、、?」
ぼそっとつぶやくと、聞こえていたらしい。
今日出会ったばかりの同級生に
きっ、と睨まれ
「現実逃避してんじゃねーよ!」と罵倒された。
思わず、身体がびくっとなる。
誰か、夢だといってくれ。
バクバクとなる心臓と対称的に恐怖で手足が冷たく感じる。
夢なら、目をつぶれば覚めるはずだ。
(これは夢だ。夢だ。覚めてくれ...!)
しかし、どんなに願っても、聞こえてくる叫び声も破壊音も消えてはくれなかった。
なんで、こんなことになったんだ...。
その答えは誰も教えてくれなかった。
—数時間前
校門脇の桜が舞っている。清々しい晴天の朝だ。
俺、宮野清明は、のんびりと通学路を歩いていた。
「みーやのー!」
声が聞こえ、後ろを振り向くと、友人の佐野が走ってきた。
「おー。佐野おはよ。」
「おっはよー!!」
朝から元気すぎる友人に顔をしかめる。
「なんで朝からそんなに元気なんだよ。」
「えー。だって今日から高2だぜ?可愛い1年はいってくるかもしれないし、なんか転校生も来るかもしれないって聞いてさー」
えへへ、と笑いながら頬をかく友人は、情報通のため、すでに可愛いと噂のある入学生をリサーチ済みらしい。
「...お前って、そんな情報どこで仕入れてくるの?」
「え、普通だろ。友達の妹に聞いてもらったり、受験にくる子見に行ったり。」
「俺にそこまでの情熱はない。」
きっぱり言い切ると、佐野は深いため息をつきながら、
「そりゃさ、バスケ部の王子様は何もしなくても寄ってくるからだろ?俺には寄ってこないから、自分から行くしかないんだって!」
えーん。と子どもの泣き真似をしている佐野の茶色い頭を掴み、
「その恥ずかしいあだ名を言うなと何回言ったらお前に伝わるんだろうなーあ?」
と言いながら力を込めた。
「いてててて!ちょっ、冗談だよ!すまんって!」
「ほーお?友人が嫌がるのを知ってて冗談とはねえー?」
「ごめんなさい!宮野くん!許して!」
と全く反省してないような言い方で笑いながら謝罪する佐野に、次はこちらが深いため息をつく番だった。
「俺は興味ないんだって。そういうの。」
手を離してやると、自分の頭の形が変わっていないか確認しながら、「もったいないなー。俺も言ってみてー。」
と、また茶化すのであった。
話をひとまず終え、靴を履き替え佐野と共に2年生の教室へと向かうと、すでにクラス割りを見ようとする同級生達の波ができていた。
「人多いなー。全然クラス割り見えねー。」
佐野も背が高い方ではあるが、さすがに人が多すぎる。
所々では、女子たちによる「一緒だよー!」だの「うわ。最悪。あいつと一緒だわ。」という声も聞こえてくる。
(見終わったならクラスに早く入ってほしい...)
そんな不満を言おうものなら、女子からの大ブーイングが巻き起こるのは知っているため、心の中にとどめておく。
佐野と共に、人を避けながら1つずつクラス前に貼り出されている名前を見ていく。
「お、あったぞ。」指でさされたクラスは、2組だった。
「...また一緒かよ。」
表の中に、友人、佐野 充希の名前と、俺の名前を見つけ、本日2度目の深いため息をついた。
「嬉しいくせにー。」にやにやしながら背中を叩いてくる友人は嬉しそうだが、もう中学生の頃からの付き合いなのだ。
そんなに嬉しいことでもないだろう。
「とりあえずクラスわかったし、早く入ろうぜ。」
佐野を急かし、中に入ろうとしたが彼はまだ表を見ている。
「佐野?何見てるんだよ。」
「いや、この名前誰だろうなって。」
指差された箇所を見ると、1番下に書いてあるようだ。
「榊 葛葉なんて、俺らの学年で聞いたことないぞ?」
佐野は首を傾げているが、そもそも同じクラスすら名前と顔が一致しない俺からしたら、不思議でも何にもなかった。
「これだけ人いたら、名前知らないやつなんてたくさんいるだろ?」
「でも、俺が知らないっておかしくないか?」
(ああ、確かに)
佐野は新聞部などにこそ入ってはいないが、全校生徒、教師に至るまでの名前やあらかたのプロフィールを把握しているという(弱みなども含め)、人に興味を持てない俺からすると理解できないほど人に興味をもっている気持ちが悪いやつだ。
1度、何故そんなに他人に興味があるのか聞いたら
「え、人が好きだから。」とさらっと気持ちが悪い返答が返ってきたことがある。
まあ、友人になったのも一時期情報収集のためと付き纏われた時、佐野の情報から俺にストーカーまがいの行為をしていた女を捕まえたりというのがきっかけだから、全てが悪いことだけだったわけでは無いのだろうが。