お題「駆け落ちる」
早速の次話更新です。読みに来て下さった読者の方々、誠にありがとうございます。
彼女は驚いていた。このようなことをする人がいたのかと。
幼き日の面影を残して、一人の青年が彼女の手を引いている。だが、可憐なドレスを纏い、純白の肌を晒す彼女に対し、みすぼらしい襤褸で体を包み、黒い肌を覗かせる青年の恰好はあまりに貧相であった。
青年が手を引き、彼女が追従する。ただそれだけの光景だ。だが、彼女とっては今まで考えたことも無かった景色であった。
「一体どこへ行くの?」
「貴女が望むのなら、どこまでも」
青年は走る。その身に無数の茨が突き刺さろうとも、途轍もない暴風が吹き荒れたとしても、彼女の前を行き、そのまっさらな手を引く。どんなことがあろうとも、彼女を護ると。
本来、それは許されぬことであった。彼女は政略の道具として使われ、青年は家から放逐され、お互いの運命は交差することなく、そのまま静かに死にゆく運命であった。
だが、青年はそれを拒んだ。そして手を伸ばした。幼き日に顔を合わせ、小さな約束を交わしただけの彼女へと。
どれほどの間、駆け抜けただろうか。壮健な青年であった彼の身体には数え切れぬほどの無残な傷跡が残り、最早動く体力すら残ってはいない。
そんな彼の手を一人の老女が握った。
「助けてくれてありがとう」
彼は幸福のまま、奈落へと落ちていった。
一話が短いと思っている読者の方々、どうかご容赦ください。試験内容が800字までなのです。試験が終われば、ぼちぼちと長めのお話も投稿できると思いますので、それまでお待ちください。
「さっさと受験勉強しろよ」「泣いた」「お前本当に受験生かよ」などでもいいので感想、お待ちしております。
次のお話は「目的と手段が逆転した人」大奮発して、今日の18時に投稿しようと思いますので、ぜひご一読ください。