お題「怒っている女」
気ままに続けていこうと思います。凡俗非才の身ですが、どうかお付き合いください。願わくば、夢と現の境界線、ほんの一時でもそこに貴方をお連れできればと思います。
女は悲しんでいた。戦争で愛する夫と一人息子を奪われ、住んでいた家は今、戦火に晒されて、最早跡形もなくなってしまった。
あぁ、このまま死んでしまえるのなら、どれほどいいだろうか。
女は目を閉じた。周囲には火の手が迫っている。肺は焼け、全身には惨い火傷が広がって、死までは間もないだろう。
ふと、女の頬を水滴が叩いた。それは、雨だった。幸運か、それとも不幸か。最初はぽつぽつと肢体を濡らすだけだった雨水は、あっという間に酷い豪雨へと変わり、瞬く間に火は消えてしまった。
女は激怒した。夫と息子を無慈悲に奪い去り、唯一の拠り所であったはずの我が家さえ取り上げたこの世は、まだ私を生かすか。
このまま惨めに生きていくくらいなら、この燃え尽きた我が家と共に灰となってしまえたら、どれほど良かったか。
女のこれからの人生に希望はない。女のこれからの生に意味はない。女のこれからの生きる道に、愛する人はいない。これがどれほど絶望的なことか。
女は焼けたはずの喉が裂けんばかりに叫んだ。怨嗟と絶望と悲嘆を込めて、その激情は誰に届くものでもない。ただ、女の内で荒れ狂うその怒りを吐き出しただけだ。この怒りが届いて堪るか。この恨みが理解されて堪るか。そう、この怒りは、この恨みは、全て女だけのものである。
朽ちかけたはずの身体に、再び息吹が宿るようだ。否、そのようなものはいらない。
壊れかけた精神が、再び構築されていくようだ。否、そのようなものはいらない。
女が望むのは、夫と息子を無慈悲にも殺して、大切な家を跡形もなく焼き払い、それでもなお、女に生を与えようとするこの世に、どうか災いあれ、それだけだ。
どれだけ叫んだだろうか、女の怒りは消えない。むしろ、時を経るごとに増していくようだった。
ふと、頭上の瓦礫が崩れた。女は笑った。やっと、死ねるのかと。
作品タイトルには逃避行と書いてありますが、それは嘘です。本当なんです、これは試験対策なんです。試験対策に書いたものをちょっと上げてみようかなー、って思っただけなんです。信じてください。
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次のお話は「駆け落ちる」。今日の13時に登校します。お題のリクエストなども受け付けていますので、そこらへんも感想欄にお願いします。