最後の戦い
[現在]
「わしが本物の殺人鬼? 証拠はあるのかの?」
「お前はいい人間ではない。それが証拠だ」
「わしがいい人間ではない? それをどうやって証明する?」
「虐待をするやつをいい人間だという人はいない。虐待が起きている兆候は、
家に着いた瞬間にオドオドする。
家に帰りたがらない。
説明が曖昧でコロコロ変わる。
体罰の正当化。
経済的困窮。
精神状態が不安定。
疲労が溜まっている。
などが挙げられる」
ニコニコおじさんは氷のように冷たい目で俺のことを見つめる。
俺はおし黙る彼に、
「あんた確か、依頼の話をしていた時に、
【最近家計がうまくいっていなくての、ちょっと疲れ気味なんじゃ。まずは依頼料についてからじゃな】
【あの、そのことなんだけど、今回は無料で依頼を請け負うよ】
【何! 本当か? それは本当に助かる】
っていう会話をしたよな。あんたの家庭では家計がうまくいっていない。そしてあんたは疲労困憊だ。
歳は三十代なのに、顔はまるでじじいのように老けている。これは虐待が起こる家庭の特徴と一致しているんだよ。
さらにどうして家計がうまくいっていないのに、俺に依頼を出したんだ?
わざわざ隣の国にまできて、高い依頼料を支払う。おじさんに得はないよな? あれは、外国人の俺を利用したかったんだろ? 俺は殺人鬼を捕まえたら当然国に帰る。そうしたら後々、事件を蒸し返されることもないよな」
「どういうことじゃ? 何が言いたい? はっきり言ったらどうだ?」
おじさんの持つ雰囲気が変わった。もう隠すつもりもないのだろう。
「お前の正体は虐待が趣味のイかれた殺人鬼だ!」
そして、公平の世界での最後の戦いが始まった。
『バトルルーレットスタート!』
いつもの無機質なアナウンスが響く。楽しげでどこかポップな音声。それがたまらなく不快だった。