策略
第四章 ニコニコ殺人鬼
[五分前]
俺とアルとアリシアは、ニコニコおじさんの家を出た。俺はすぐに、アルとアリシアに小声で話しかけた。
「おい! 聞いてくれ! 昨日捕まえた見るからに怪しい奴。あいつは多分殺人鬼じゃない。本当の殺人鬼の替え玉だ」
「おい。なんで小声なんだ?」
「いいから聞けっ」
アルとアリシアは顔を見合わせる。俺の表情が冗談を言っているわけではないことを暗に示している。
「昨日のあいつは殺人鬼ではない」
「でもあんな見るからに頭のおかしい奴」
アルが言い切る前に、
「だからだ! もし殺人鬼がいるって噂になったらどんな格好をする?
なるべく身なりを清潔に整えて、常識人のふりをするだろ?
顔には笑顔を浮かべて、ごく普通の人間を演じるはずだ。
なのに、あいつは自らイかれていることを誇張しているようだった」
「確かにそうだな」
「あいつは、動物の鳴き声を常に口に出して、口からはよだれを垂らしていた。
だが、俺がゴリラの正確な鳴き声を教えたところ。
その後は、その鳴き声を正確に発していた。本当に頭がイかれているならそんなことしない。
あの時、俺が何を言っているのかしっかりと伝わっていたんだ。
ということは、あいつはイかれたふりをしている一般人だということになる」
「なら本当の殺人鬼は誰なんだ?」
「替え玉の殺人鬼を捕まえさせたがるのは、本物の殺人鬼だけだ。つまり」
「ケンは、ニコニコおじさんが本物の殺人鬼だと言いたいのか?」
「そうだ。アリシア、あのおじさんの赤ちゃんは虐待の痕跡があったよな?」
「ええ。あったわ。間違いなくあの家では虐待が行われている」
「でも、あんなにニコニコした人が本当に殺人なんてするのか?」
「今から確かめに行こう」
帰るふりをして、すぐに裏口からニコニコおじさんの家に戻った。