対面
[ニコニコおじさんの家にて]
ケンたちがいなくなった後、
「クククク。馬鹿な奴らめ」
ニコニコおじさんの顔からはいつの間にかニコニコが消えていた。あるのは、仮面のような冷たい無表情だけ。何も顔についていない。仮面など被っていないのに、素顔は能面のようにのっぺらとしている。表情が死んでいるみたいだ。
キッチンの方から赤ちゃんの泣き声が聞こえてきた。
「おぎゃああああ」
おじさんはそちらを向いて、
「うるさいな! いつまで泣いているんだよっ!」
「おぎゃあ。おぎゃあ」
だが、赤ちゃんは泣き止まない。
「ガキを泣き止ませられないなら、こっちに連れてこい!」
ひっぱたいて泣き止ませるつもりなのだろうか。
そして、誰かがキッチンの方から赤ちゃんを抱えながらニコニコおじさんの方に向かってくる。
「よし。よし。泣くな」
その人物はニコニコ奥さんではない。
「おぎゃっ。おぎゃ」
赤ちゃんを抱っこしていたのはケンだった。
「ん? ケン殿? 帰ったのでは?」
ニコニコおじさんは顔に表情を慌てて繕った。だがいつもの作り笑いには、もうなんの効果もないだろう。
「いや、俺にきた依頼は殺人鬼を捉えること。俺はまだ本物の殺人鬼を捕まえていない」
ケンは赤ちゃんを揺りかごにそっと置いた。毛布をかけて頭を撫でる。すると、赤ちゃんはピタリと泣き止んだ。
「きゃっ。きゃ」
ケンは赤ちゃんに笑いかけると、ニコニコおじさんの向かいに座った。
そして、ニコニコおじさんの目を見て、
「あんたが本物の殺人鬼だろ?」