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この小説は絶対に読まないでください 〜パワーワード〜  作者: 大和田大和
第三巻 公平の世界
82/260

ニコニコ笑う〇〇○

燃え移るように広がる赤色は、絵の具よりも粘ついていて、墨汁よりも濃厚だった。


その中を一人の人間が歩いていく。一歩、また一歩。なんの感情もなくただの機械のようだ。


そして、その男は、一番奥の、一番厳重な牢屋の前まで来た。

牢屋の中には、ケンが先ほど捕まえた殺人鬼が放り込まれていた。


殺人鬼は、おもてをあげて、

「にゃんにゃん。ワンワ、ん? なんだあんたか」

喋れないふりをやめた。イかれた殺人鬼のふりをするのは簡単だ。言葉が通じないように演技をすればいい。そして、見るからに殺人鬼っぽく目にクマを浮かべ、ボロボロのヨレヨレの格好をすればいい。


そうすれば周囲の人間は勝手に、イかれていると解釈してくれる。だが、本当にイかれている奴は、そんなことしない。

「なあ。言う通りにしただろ? 報酬はくれるんだよな? っていうかあんたどうやってここに入ったんだ? それに看守どもはどこに行った?」

殺人鬼の牢屋の前に立つ男は、殺人鬼に向かって、

「看守は死んだ」



「は? 死んだ? どうして?」


「わしが殺した」


「どういうことだ? あんたが殺したってなんの冗談、」


プシュっ!


ゴトリ。


何かが風を切るような音の後に、重たいものが床に落ちるような音がした。刑務所内は完全な静寂に呑まれた。まるで、ここだけ宇宙空間の中に転移したようだ。音の墓場のなかで、男の足音だけがコツコツ響く。沈黙を砕くその足音は、死神のそれのようだった。



言葉が通じなくて、見るからに人を殺してそうな奴。そんなやつちっとも怖くない。だってそんな奴イかれているうちにも入らないから。


本当にイかれている殺人鬼は、じーっと息を潜めている。常に仮面を被っている。


刑務所内に存在する全ての生物を、死体に変えた殺人鬼は、そうっと夜の闇に消えていった。


怪物は、身近なところにいる。いつもいつも隣にいる。人はみんな遠くにいる“見るからに怪しい殺人鬼”を怖がる。本当にイかれている奴は、すぐ隣にいるのに。


いつだってそれに気づかないふりをする。本当は気づきたくないんだ。本当は心のどこかで殺人鬼だってわかっているんだ。

それに気づくのがたまらなく怖いんだ。


本物のイかれた殺人鬼は、いつだって仮面を被っている。





いつだってニコニコ笑っている。


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