冷たくて温かい
『攻撃力大』
「そんな。終わった」
その瞬間、横から特大の斬撃が飛んできて、殺人鬼を吹っ飛ばした。
「大丈夫か? 待っていろ。すぐに助ける!」
斬撃を飛ばしたのは、アルだった。
「仲間の助けなんてあてにするようじゃ俺はまだダメだな」
「何言っている? 仲間なんだから頼ってもいい」
その後、アルに何度かパワーワードを試みてもらった。無論ルーレットで回復威力が決まる。小や中だと少ししか回復しなかったが、何度か繰り返し回復してもらったら、回復力大が出た。
戦闘の威力補正の感覚から、この世界で回復力大が出れば、どんな傷でも治るだろうとのことだった。
殺人鬼を拘束し、猿轡をはめた。
「よし! これで一件落着だな! 帰ろう」
と、アル。
「そうだな!」
俺が立ち上がろうとすると、
「ぐわっ!」
まだ怪我が完全に回復していないようだ。足がガクガクして倒れそうになった。
「仕方がないな」
アルは左肩を貸してくれた。
暗い路地を二人分の足音だけが飾る。俺の右肩にアルの左肩が触れている。義手はキンキン冷たいが、そうでない生身の部分はすごく暖かい。まるで義手が彼女の温もりを引き立たせているかのようだ。
静かな夜の街には、喧騒などない。静寂が支配した世界。耳をすませば隣にいる人間の鼓動の音までも聞こえてきそうだ。
トクン。トクン。トクン。
一定のリズムで刻まれる命の鼓動は、まるで生の証明。生きている間にだけ聞こえる音色だ。
生きている人間に触れるのは、こんなに心が安らぐのに、死体に触れると、どうして心が腐りそうになるのだろう。心臓が動いているか、止まっているかの違いしかないはずなのに。
「なあ」