腎臓
「はあっはあっ。はあっ。ぐっ」
「ふふふふふふふほっほ」
殺人鬼は勝ちを確信して近寄ってきた。
「そう。ゴリラの鳴き声はそんな感じだ。多くの人が勘違いしているがウホッではない。ゴリラの鳴き声は、もっと複雑で奥が深いんだ」
「チューチュー。ニャアニャア。ブヒブヒひひひひ」
「俺がなんで逃げないか不思議に思うか?」
「シャーーーー! シュッ! シュー!」
殺人鬼は蛇の鳴き声を真似しながら、近寄ってくる。
「そんなことどうでも良さそうだな」
そして、お互いに武器を振り上げて、
『『バトルルーレットスタート!』』
『ピロリロリロリロ』
俺と殺人鬼のルーレットが回転する。この場の凄惨な雰囲気と全く調和しないポップな機械音が響く。
「俺がわざと攻撃を食らっているように見えるだろ? その通りだ。俺はお前の攻撃をわざと食らってピンチに陥っている」
『ピロリロ、リロ、リ、ロ』
ルーレットがゆっくりとその回転を緩める。
「今、俺が追い詰められているように見えるだろ? 俺は五体不満足で、お前はほぼ無傷。だけどな、パワーワード使いにとっては、ピンチや瀕死や絶体絶命は、勝利へのただの布石なんだよ」
俺の出目は、
『ピピピピピ! ピーン! 防御力小』
と、最悪のものだった。
俺はまっすぐに殺人鬼の出目を見た。
『攻撃力大』
そして、殺人鬼の容赦のない攻撃が俺の腎臓に深々と突き刺さった。
俺は痛みで気絶寸前になりながら、右腕で水の剣を掴む。
「俺の勝ちだ」




