不運のわけ
『ピロリロリロリロピピピピピ! ピーン! 攻撃力中』
俺の出目は中。そして、
『ピロリロリロリロピピピピピ! ピーン! 攻撃力大』
殺人鬼の出目は大。攻撃力中ということは、補正がないということらしい。本来の俺の力で切りつけることができる。
俺の通常の力と強化された肉切り包丁はぶつかり合う。肉切り包丁の重い一撃が俺の薄い剣にのしかかる。そして、そのまま重力を乗せた一撃が俺の体を優しく舐めた。
「ぐっ」
俺の体は血でグチョグチョになった。頭からバケツで血を被ったみたいだ。
「全身に“確かに刻まれた傷”はない」
俺はパワーワードで回復を試みる。
そして、悪魔のルーレットが再び回る。
『バトルルーレットスタート!』
『ピロリロリロリロピピピピピ! ピーン! 回復力小』
「くそっ! 回復もこれか!」
そして、全身を覆う傷からほんの少しだけ痛みが引いた気がする。
それにしてもさっきから出目が悪すぎるだろ。流石に、ただの運だけでこうなっているわけじゃないはずだ。一体なぜこんなに俺は運が悪いんだ?
俺は頭の中でその理由を必死で探した。
運の良さ。運の良さ。運の良さ。昨日まで俺の運気は絶好調だった。それはなぜか? それはダイヤモンドリキッドとやらを飲んだからだ。あの怪しくて都合のいい液体は飲んだ人間の運を上げる。
もしあの液体に、デメリットがあるのなら? 例えば、あの液体の効果が実は、“運を上げる”ではなく“運の前借り”だとしたら?
もしそうだとしたら、今のこの状況にも納得がいく。
作為的にルーレットが止まっているんじゃないかと疑うほど出目が悪い。だが、昨日のあの幸運のツケだと考えれば納得がいく。それなら、今すぐにここから逃げるべきだ。日を改めるか、一度この国の外に出て不運状態を解除すればいい。(この国のルールは領土内でのみ発生するため)
絶対に俺は今すぐ逃げるべきだ! 都合よく仲間が助けてに来るなんて期待してはいけない! 戦闘中に、他人の助けをあてにするなど言語道断!
だが、俺は逃げることなく戦うことにした。
そして、当然のように一方的に嬲られた。
左腕が切り落とされた。右耳がそぎ落とされた。肋骨が体外に飛び出た。臓器もいくつか損傷している。左の太ももに亀裂が走る。足の指がちぎられた。背中に大きな斬撃跡が描かれた。
全身を切り刻まれた。