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この小説は絶対に読まないでください 〜パワーワード〜  作者: 大和田大和
第三巻 公平の世界
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窮鼠猫に噛まれる

落ち着け、落ち着け、落ち着け。戦闘力だけなら俺の方が上だ。出目さえ良ければ、まず俺が勝つ。殺人鬼は、変な動物の鳴き真似のようなことばかりして、パワーワードは使ってこない。


落ち着けば勝てる戦いだ。落ち着いて、敵の攻撃に攻撃をぶつけよう。あとはいい出目が出るまでひたすら待つだけだ。戦いが長引いてもアリシア達が来てくれるはず。


「チュンチュン。カーカー。ホーホケキョ!」

雀、烏、鶯の鳴き声を真似ながら殺人鬼がニヤついている。口からは相変わらずよだれのようなものが滴り落ちる。それが彼の不気味さをより強く浮き彫りにした。


「アリシア早くきてくれ!」

俺の独り言が静寂を割いた。そして、

『バトルルーレットスタート!』

ルーレットは回る。ぐるぐるぐるぐると回る。そこに人間の命がかかっていることなど、知らずに回る。




[同時刻 アリシア視点]

私はトボトボと路地裏を歩く。

「うぇええええん。どこよここー?」


私は完全に迷子になっていた。かんっぜんに迷子だ。もうどっちからきたのかわからない。


「ええい! 今、こうしている瞬間にも、ケンは戦っているかもしれない。私だけこんなところで道草食っている場合じゃない!」

私は心に勇気の炎を熱くたぎらせた。


「私はもう迷わない! そう決めたんだから! まっすぐ自分の信じた道を突き進んでやる! それがこの私、アリシアなのよっ!」

私は、暗闇の中を走り抜けた。


「待っていて! ケン! 絶対に私があなたのピンチを救ってあげるわ!」




[ケン視点に戻る]

俺はふらつく頭をはっきりさせようとする。だが、首から上だけ別の生き物になってしまったかのようだ。全くと言っていいほど動かない。


その原因は、全身にまとわりつく痛みだ。そして、大量出血により激しい痺れが体を這いずっている。

「くそっ! 完全にピンチだ。アリシアまだか?」


俺は、防戦一方に追い込まれた。出目が悪すぎる。さっきからほとんど出目が小か中だ。防御するにも攻撃するにも出目が悪すぎる。


それに対して相手の出目はすこぶる良い。中が二回、小が一回、残りは全て大だ。


俺と殺人鬼の出目がかち合って、俺の体だけにダメージが入る。かれこれそんなやりとりを十分ほど続けた。


もちろん俺の出目が打ち勝つ場合もあったが、肝心の体力がもう残っていない。

この世界での戦闘がこれほど危険だったとは思っていなかった。この世界では、初撃を入れたほうがそのまま勝つことがほとんどだろう。


最初の一撃で、相手の精神と体力を根こそぎ削れば、あとは、いたぶるだけ。


たとえ、出目が悪くても、初撃で大幅に体力を削られているから、不利な状況で戦わないといけない。

「頭がガンガンする」

水に映った景色のように、揺れる視界の中に殺人鬼を探す。


床も空も壁も自分自身さえもぐにゃぐにゃと揺れて折れ曲がる。頭がぼーっとして、少し気持ちがいい。

「くそっ! しっかりしろ俺!」

俺は自分の手で頬を叩いて、気合いを入れる。


そして、水の剣を構え直す。

「うおおおおお!」


「ニャアン。ニャニャニャ。ニャアニャアア!」

殺人鬼に剣を振りかざす。

『バトルルーレットスタート!』


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