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この小説は絶対に読まないでください 〜パワーワード〜  作者: 大和田大和
第三巻 公平の世界
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まさかあの人が?

ここはどうやら、街の一番外側らしい。石壁と民家に囲まれた袋小路。もう逃げ場などない。

殺人鬼の顔はよく見えない。

「お前がこの街の人を脅かす殺人鬼だな! 俺はパワーワード使いのケン。お前を拘束させてもらう!」


「ヴヴヴヴヴ」

殺人鬼は喉を鳴らして威嚇のようなことをしだした。何だこいつ? 気味が悪いな。


「おい! 聞いているのか? 弁解するなら今だぞ?」

「ワンワンっ! ニャーニャー!」

殺人鬼は犬と猫の鳴き真似を始めた。


「お前ふざけているのか?」

俺は水で剣を精製。躙り寄るように殺人鬼に近づいていく。

「コケコッコー! コケコッコー! コケコケコケコケコケコッコー!」

「今度は鶏の真似か? 何のつもりだ?」

次第に殺人鬼の顔が露わになる。仄暗い闇の中に照らされたその顔は、特に知っている顔というわけでもなかった。ごく普通にその辺にいそうなモブ顔だった。


ごく平均的な黒目、髪の色はただの薄茶色。髪型も平凡そのもの。鼻も通常の平均的な普通の鼻。一見すると、ただのその辺を歩いている一般人だ。


だが、俺は知っている、こういう平凡な人間のふりをしている奴が一番やばい。


仮面で顔を隠して、本性は絶対にさらけ出さない。


超凶悪な連続殺人鬼が捕まった時などに、その人相はニュースなどで公開される。もちろん、いかにも犯罪者ヅラしたおっかないのもいるが、本当に怖いのはそういう奴らじゃない。


本当にイかれているのは、全く狂気を感じさせない顔の殺人鬼だ。


人間は、本当の自分を隠せば隠すほど、鬱憤が心の中に沈殿する。普通に振る舞い、普通に人と接し、普通に生きる。そういう人間のフリをした生まれつきのイカレ野郎が一番やばい。


心のビンの奥底に閉じ込めた、どす黒い感情は、長い年月をかけて育っていく。やがてビンの中には収まりきらなくなってしまう。そして、ビンは粉々に砕けて、中からはどろりとした殺意がねっとりと溢れてくる。


周囲にいた人間、友人、知人は、口を揃えてこう言う。



『まさかあの人が』

と。



最もイかれている類の殺人鬼は、一般人の皮を被った奴だ。最も殺人鬼から程遠い奴こそが、本当の殺人鬼なのだ。


殺人鬼は口からよだれを滴り落とす。月明かりを反射する一本の川が頬に生まれる。

ボタッボタッ!


地べたに落ちたよだれは、汚いシミとなった。

「汚い野郎だな」

「オウッ! オウッ! オウッ! オウッ!」

殺人鬼も俺の方に歩をゆっくりと進めてくる。


「今度はアザラシの真似か?」

「ウキキっ! ヒヒーン! ゲコゲコ ウホッ!」

猿、馬、蛙、そして俺の大好きなゴリラの鳴き声とともに、戦闘が始まった。


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