粉雪
「えっ!」
奥さんは急に、血の気が引いたように慌て始めた。顔は一気に蒼白になった。
「いや! ダメならいいんです! ごめんなさい」
「い、いえ。別に構わないわ」
急にオロオロし始めたが、奥さんは赤ちゃんを私にそっと差し出した。
「気をつけてね」
私は奥さんから赤ちゃんを受け取った。赤ちゃんを胸の中に抱くと、じっと大人しくしている。微熱の塊を両の腕で抱えているみたいだ。
「おほっ! かわゆい」
私は赤ちゃんをナデナデした。赤ちゃんのほっぺはぷにぷにで大福みたい。粉雪のように白い肌が仄暗い部屋の中で光って見える。
「いいこでちゅねー」
手で抱えられるサイズの小さな命は、私と同じように生命の鼓動を孕んでいる。
私は親に愛してもらうことはなかった。だけど、ずっと小さい時、こういう風にママに抱きかかえられていたのかもしれない。心の中に、水に溶かして薄くなった願望のようなものが生まれた。
私がママのことを思い出す時、なぜかレオリアおばさんが頭の中に浮かぶ。一体なぜだろう。
私に撫でられている間、奥さんはじっと赤ちゃんのことを見ている。表情は固く、こわばっている。私が赤ちゃんを落っことしたりしないか不安なのだろうか? いや、そう言った類の表情ではない。これは人間が何かを隠そうとしている時の表情だ。
その時だった、
「あれ? この子」
私は赤ちゃんの体に刻まれた異変に気付いた。