ありえない程度のこと
俺は頭の中に殺人鬼の分類を思い描いてから、ニコニコおじさんに、
「具体的には、どんなターゲットがどこで、どういう風に殺されたのか教えてくれ」
「殺人のターゲットは完全にランダム。性別、社会的地位、裕福度、年齢、服装は毎回バラバラじゃ。殺される場所は、だいたいが自宅。鍵を締め切った部屋で殺されておった。人の頭がかろうじて入るくらいの隙間しかない完全な密室じゃ。
殺害方法は、鈍器での撲殺、絞殺、刺殺など多岐にわたる。麻酔で眠らせてから丁寧に殺す場合もあったの。どうじゃ? これで犯人を特定できそうかの?」
「うーん。プロファイリングの基礎と照らし合わせて考えると、無秩序型の連続殺人だろうな。快楽目的や、社会への恨みから殺人を繰り返しているのだろう」
「ほう。たったこれだけの情報でそこまでわかるんじゃな」
「おそらく犯人は、知能が低く、社会的に困窮。人間の社会から根絶され、孤立している人物だろうな」
「ううむ。この国にはそういった人が多いからのう」
「っていうか今更だが、なんで俺を呼んだんだ? 警察やパワーワード使いの何でも屋なんてどの国にでもいるだろ?」
「む? この国の警察は非常に無能なのじゃよ。パワーワード使いの何でも屋はあるにはあるんじゃが、日によって実力が変わってしまうのじゃ」
そういえば、最初に入った水屋もレストランでも店主は、『今日“の”店主は俺だ』と、日によって店主が違うようなことを言っていた。
さらに、さっきもニコニコおじさんの家は、毎日変わっているような口ぶりだった。
この家に着くまでもやたら時間がかかっていたこともその証拠だろう。
「なあ。この国って公平の国なんだよな? なんで公平の国って呼ばれているんだ? 水を買うのも宿に泊まるのも全てがクジ引き。毎回ランダムで運任せの不公平なものだった。俺には不公平な国にしか見えないんだが?」
「フォッフォッフォ。他所の国の方から見たらそういう風に見えるじゃろうな。なにせこの国は、わざと理不尽なまでの不公平を国民に強いておる。そして、公平を生み出しているのじゃよ」
「どういうことだ?」
「この国は、不公平により公平になっておるのじゃよ」
不公平イコール公平。そんな矛盾する一言は、俺の心に深く突き刺さった。
不公平と公平は、互いに逆の意味を持つ単語。今、その二つの単語は等式で結ばれた。
それがそういう意味を持つのか、どうやってそんな不可能が成り立っているのか、そんなこともう分かりきっている。
それが、この世界のルールだからだ。あり得なければ、あり得ないほど、それがあり得てしまう。俺はもう“あり得ない程度のこと”では驚かなくなっていた。