ゴリラの丸焼き
[地上]
街はすっかり喧騒を取り戻していた。静寂の死体の上に、賑やかな騒音がのしかかる。
「いやー。楽しかったな。あんなすごい経験できてたったの三万マニーだぜ!」
「最後に何か食ってから帰ろう」
「さーんせーい!」
そして、俺たちはしばらく朝の街を練り歩いた。
「あそこなんてどうだ?」
俺が気になったのは、“公平なレストランクジ屋”だった。ここも多分、運任せのクジ引き合戦みたいなのがあるんだろうな。全く、これの一体どこが公平なんだか。
「あそこでは運任せのクジ引き合戦があるぞ」
「だろうな。ま! 最後にクジ引いてから帰ろう!」
店内に入ると、そこには巨大なガラポンがあった。レストランの内装は、シンプル。巨大な石をくりぬいて作ったものだった。床も壁も天井も石。窓はただの穴だ。
「いらっちゃい。今日はあたち魔法少女ゴリアテが店主でしゅ。三名ちゃまでちゅか?」
店主はゴリゴリのムキムキのゴリマッチョな男性だった。声は異様に甲高く、服装は魔法少女の標準装備のようなものだった。ピンクのフリルと超ミニスカからは、青筋が浮き出ている野太い足が見える。
腕はサイとゾウとライオンとカバとバイソンを同時に絞め殺せそうなほど太い。まるで戦車のような存在感がある。
そして、体形からは想像できないような可愛らしい声を発する。この人キャラ濃いな。
「三名です」
「ここでは、うんま、」
「運任せのクジ引き合戦があるんですよね!」
俺は食い気味で言った。
「なーんだお客ちゃまは、初めてじゃないんでちゅね。ならちゃっちょくクジを引いてくだしゃい!」
ゴリマッチョな店主が言った。
店主に案内されるがままテーブルに着いた。クジ引きの景品は、
一等、ゴリラの丸焼き。
二等、ワニの踊り食い。
三等、デラックスランチ
四等、普通の食事
だった。一等のゴリラの丸焼きが死ぬほど気になる。っていうかゴリラって聞くとどうしてもさっきの店主の顔がちらつく。




