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この小説は絶対に読まないでください 〜パワーワード〜  作者: 大和田大和
第三巻 公平の世界
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屋内にある屋外


俺たちは、“公平なホテル”の抽選会とやらに参加することになった。


抽選会はホテルのロビーで行われた。ロビーはホテルの外観からは想像ができないほどだだっ広かった。まるでウェディングケーキのように、下から上に順に小さくなっている。


抽選会をやるためにそういう作りになっているのだろう。木とレンガでできた簡素で丈夫な作りだ。レンガの塊に木枠が縫いこまれているようだ。堅牢な組み合わせ方が、宿泊客に安心感を植え付ける。


そんなロビーには、十人ほどの旅行客の集団がいた。俺たちはその集団に加わった。


「さ! お集まりの皆様! 本日は“公平なホテル”をご利用いただきありがとうございますな! それでは早速クジ引きを開始しますな!」

俺たちの視線の先には、巨大なルーレット。そこにはこう書かれていた。


一等、最上階天空の間“竜王の居室”

二等、アヴァロン風“屋内にある屋外の部屋”

三等、ちょっといい部屋

四等、普通の部屋


「ふーん。竜王の居室ねー。そんなところに泊まれたらいいんだろうけどな」

「私は、屋内にある屋外の部屋が気になるな」

「はいはい! 皆様! 部屋のご説明をさせていただきますな!」

そして、ガラガラの奥にスクリーンが表示されて、写真が映し出された。


「まずはこちらをご覧ください! 四等、普通の部屋です!」

写真に写されていたのは、まごうことなき普通の部屋だった。普通のベッドに普通の冷蔵庫、ちょっと悪い景色に、普通の広さ。普通の部屋を普通に想像してくれ! そういって大多数の人が想像するような普通の部屋だ。普通すぎてなにもコメントができない。普通としか言いようがない。そして、おそらく俺たちが泊まる部屋だ。


「驚くほど普通ね!」

「ああ。全く同感だ!」

周囲の旅行客も、特になんの感想もないのだろう。談笑したり、上の空だったり、中には、壁のシミを数えている人もいる。


「次にこちらをご覧くださいな! 三等、ちょっといい部屋ですな!」

写真に写されていたのは、先ほどの部屋よりもちょっといい部屋だった。大きくてやや豪華なベッド。非常に清潔そうで、目に入れても痛くなさそうだ。白いシーツが眩しい。


景色はさっきの部屋とは格段に違っている。綺麗な夜景が楽しめそうだ。周囲のビルの縫い目から見える月も悪くないだろう。夜景を焼き付けながら飲むジュースは格別だろうな。


テーブルには盛りだくさんのフルーツセットがサービスでついている。色とりどりの花束のように美しい。ここでちょっと食レポっぽいことをしたいが、先ほど散々馬鹿にされたためやめておくことにしよう。


「ここに泊まれたら最高だな!」

「ま! 現実は、三等に当たったらラッキーくらいだろう」

周囲の人々もやや食いつき気味でスクリーンを凝視している。先ほどとは打って変わって、もう壁のシミを数える人はいない。


「この部屋では、綺麗な夜景とフルーツセットを楽しんでもらえますな! 何かの祝い事とかで、“普段より一個ランクが高い部屋に泊まろう”みたいな部屋でございますな!」

ホテル従業員は続ける。


「さ! 続いてはお待ちかね! 二等のアヴァロン風“屋内にある屋外の部屋”でございますっな!」

「え? なんだこれ!」

スクリーンに映し出されたのは、まごうことなく屋外だった。


無限に広がる群青色の空。その下には、なんと無限に広がる大海原! そして、その大海原を見渡せるビーチがスクリーンに映し出されていたのだ。


そのビーチには、なんと砂に直でベッドが置いてあるのだ。黄金の砂の上に直で直接白いベッドが置いてある。もはや嫌がらせのように見えなくもないが、これは贅沢なのだろうか?


「なんだか異様な光景だな」

と、アルトリウス。

ベッドの横には、ライトテーブル。もちろん砂の上に直だ。


「「「おおおー」」」

異様な光景に盛り上がる一同。これ贅沢なのか?


スクリーンに映し出された映像は、切り替わる。

映し出されたのは、ビーチに直で備え付けられているキッチンだった。これどうやって備え付けたんだ?


まさか、水道とか電気をビーチの下に引いているのか? 流石にそんなわけないか。

「今、ご覧になっていただいているのは、屋外キッチンですな。なんと水道も電気もビーチの下に引いていますな!」

まじか! 砂の中に水道とか埋め込んでいるのか! ってかなんでそんなことすんの?


映像はさらにもう一度切り替わる。


そこに映し出されたのは、

「これビーチにリンゴがなっているのか?」

なんと、ビーチに生い茂るリンゴ園だった。どのリンゴも赤々と育ち、丸々と太っている。きっと太陽の光をたっぷりを浴びて熟成しているのだろう。


っていうか、なんでリンゴ? しかもビーチに直っておかしいだろ。だって海水で普通の植物が育つわけないだろうに。まさか、リンゴがしっかりと育つように地下で真水を流しているのか? いや、そんなわけないか。

「こちらのビーチのリンゴ園は、地下で真水を流しておりますな!」

なんでだよっ! ビーチにリンゴって別にあんまり嬉しくないだろう。


「ビーチにリンゴを植え付けることでアヴァロン風にしておりますな」

そういうことか。っていうかアヴァロンってなんだよ。


「「「おおおおおー!」」」

だが周囲からは、俺の反応と真逆の歓喜のような反応が起きた。


「これぞ屋内における最高の贅沢! 屋内で屋外に宿泊できるなんて!」

いや、いじめじゃね?

「まさかリンゴでアヴァロンを表現するなんて! 隠された芸術は、真の幸せを私たちにもたらしてくれる!」

もたらさねーよ。

「ここに泊まれたら死んでもいい!」

そんなに? そんなにいいの?



周囲の人々の反応は、この部屋の希少価値を高めた。あんまり泊まりたくないけど、みんながいいなーいいなー言うと、なんかいいものに見えてくる。

「この部屋に泊まりたいって思っている自分がいるわ!」

「私もこの部屋に泊まりたくてウズウズしてきた!」

「実は俺も!」

俺たちの気持ちはいつの間にか一つになっていた。


「この部屋は、当ホテルの十八階にあります」

「え? まじで室内なんですか?」


「ええ! こちらの部屋は室内にあります。パワーワードの使い手が、技術と能力を駆使して、屋内に作成しました。“ありえない!”と思ったそこのあなた! 是非泊まってみてくださいな!」

俺は唾をごくりと飲み込んだ。

「さ、続いて最後の部屋をご覧くださいな! こちらが竜王の居室ですな!」


スクリーンに映されたのは、ただの空の画像だった。

(なんだこれ? ただの夜景か?)

「“なんだこれ? ただの夜景か?”と思ったそこのあなた! これはただの夜景などではございませんな!」


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