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この小説は絶対に読まないでください 〜パワーワード〜  作者: 大和田大和
第一巻パワーワード 第一章 綿棒を着る女の子 
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太鼓を飼う男と上下ジーパン

石造りの外壁に囲まれた居住区は、まるで城下町のようだ。

地面の上に敷き詰められた石の絨毯は複雑に入り組み、街を迷路のようにする。

来るものを惑わす複雑な地形が、俺にとってはたまらなく趣のあるものに感じられた。


街にある建物は赤レンガのものや木造のもの、石造りのものなど多種多様。

中には水で建築された家や、イワシでできた家なんかもあった。


道ゆく人の中には、ペットボトルを着ている人や、上下ジーパンを着ている人、太鼓を散歩させている人、明らかに人間でないような獣人などもいた。


「おい。アリシア。あの人が飼っているの太鼓か?」

俺は小声でアリシアに聞いた。

「ええそうよ。それが何?」


その人は、太鼓にリードをつけて散歩させている。

太鼓に餌をあげたり、撫でたりしている。

餌は、スルメだ。

太鼓の鳴き声は「ドンっ! カッ!」だ。

「いや、これが普通ならいいんだ別に」



俺は太鼓の人から視線をそらして、今度は、

「アリシア、あの人が羽織っているのってジーパンか?」

俺は上下ジーパンを着ている人の方を顎で指し、アリシアに尋ねた。

その人は、ジーパンをいくつも縫い合わせて、穴を開けてジャケットに加工したような服を着ている。

驚くことに本当にそれで服として成立している。


「ええ。あの人は上下ジーパンを着ている。いや履いているわね。それが何?」

「いや、普通ならいいんだ」



俺は気を取り直して、街をぐるっと一周見渡した。俺の視線が街の隅々まで舐めていく。

初めて見る異世界の街は、俺の心を激しく色付けた。

馬のひずめ、乾いた靴音、うるさい話し声、都会の喧騒は華やかな曲のように聞こえた。



「うわースッゲー! ちょいちょい突っ込みたくなるけど、それを差し引いても異世界だ!」

「ええ。ここは異世界よ! さあ、早速だけど帰りましょうか! あったかいお家が待っているわ!」

「何言っているんだよ、ほら行くぞ!」


俺は頑なに嫌がるアリシアの手を力づくで引っ張ると無理やり強引に街中を引きずり回した。

まるで馬にくくりつけられた西武のガンマンの公開処刑のようだ。


そして、ついに俺の異様なテンションに根負けしたアリシアが安いレストランに俺を連れて行ってくれることになった。

レストランの外観には『パワーワードレストラン水屋』と書いてあった。


アリシアが言うには、パワーワード初心者のためのレストランらしい。

『水屋ってなんだ?』と思ったがとりあえず入ってみることにした。


俺の心は踊った。


レストランの中に入ると、華やかで豪勢で贅沢で豪華絢爛で煌びやかなレストランの()()のような内装だった。

逆ヴィジュアル系レストランだ。


とても臭くて、正直()()()みたいな臭いが充満している。臭いったりゃありゃしない。

だけどそんなこと、今のテンションの俺には関係なかった。


席に着くとウェイターが乱暴にコップをテーブルに二つ置いた。

コップは木製で()()()みたいな臭いがした。


「せっかくだしパワーアップを狙ってみましょうか」

「ああ。パワーワードってやつだな」


「でも食べ終わったら本当に帰るわよ。いいわね」

「ああ、帰る」

俺は嘘をついた。帰るわけねーだろ。



「じゃあ食事を待つ間、気になった物事を実際に口に出して言ってみて!」

アリシアはコップで飲み物を飲みながらから言った。

「わかった!」

俺はテンションが最高潮に達し、飲み物を一気飲みしようとした。


「ぐわっ! おえっ! なんだこりゃ!」

なんとコップの中になみなみと注がれていたのは、()()()だった。


「おい! なんでちくわが飲み物として提供されているんだよ?」

ちくわは細かく丁寧に切られて液体になっている。ミキサーにでも突っ込んだのだろうか? 

これを口に含むと明らかにちくわの味がした。

ちくわが飲み物になっているのだ。


『パワーワードを感知しました。ケンの能力が向上します』

アナウンスが流れる。


「お。能力が上がった」

「そうよ。このレストランはパワーワードたっぷりのレストランなのよ。

いたるところにパワーワードが散りばめられているから、それに対してすかさずツッコミを入れて! 

そうすればケンの能力がうなぎのぼりよ! おめでとう!」



つまりパワーワード初心者のために、不自然な状況がお膳立てされているレストランってことだな。

「あ、ありがとう。パワーワードって通常使われないような語句の組み合わせのことか?」

「ええ。そうよ。パワーワードには大きく分けて三種類あるの。

まず一つ目は、さっき言ったように通常ありえない主語と述語の組み合わせ。

例えば、“()()()()()()”とかよ」


「なるほど、そうすると俺のパワーが上がるんだな! ちくわを飲む! ちくわを飲む! ちくわを飲む! ちくわを飲む! ちくわを飲む! ちくわを飲む! あれ?」

だが、パワーアップのアナウンスがもう流れながった。


「そんなに何度も言っても無駄よ。

パワーアップのチャンスは一回だけよ。


そして、二つ目の分類として、矛盾する一文というものがあるわ。


例えば“あり得ないなんてあり得ない”とかよ! 

短い一文の中で矛盾しているでしょ? 

この世界ではこれもインパクトのあるワード、つまりパワーワードとして扱われるのよ」


「最後の一つは?」


「その人の人生にとって意味のある一文よ。“お前のことを愛している”とかね。

ただし、本当に愛していないとダメよ」


「三つ目は変な文章じゃなくてもいいのか?」

「ええ。これだけ例外よ」

「ふーん」

と言いながら、俺は再び無意識のうちにコップに注がれたちくわを飲んだ。


「げっ! またちくわ飲んじゃった! ってあれ?」


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