二人目の友達
第四章 二人目の友達
そして、
「さ、着いたわよ」
私たちは瓦礫の山が散乱している空き地に着いた。
「着いた? 着いたってどこに?」
こんな場所に人が住んでいるとは思えない。
「アルちゃんの新しい家よ」
そういうとアリシアは瓦礫の山の中に入っていった。瓦礫の塊をいくつか抜けて奥に進んだ。まるで手作りの迷宮みたいだ。そして、私たちはおよそ家とは言えないような物体の前にたどり着いた。
「アリシア、お前椅子に住んでいるのか?」
「アルちゃんもこれから住むんだよ」
と、笑顔を見せ、椅子をうまい具合に噛み合わせながら作ったオンボロの家のオンボロのドアを開けた。ドアももちろん椅子を加工して作ったものだろう。
軋む建物は風が吹くたびに大きく揺れる。今にも壊れそうな椅子でできたぼろ家はどこか温かいように感じた。
「とうっ!」
アリシアが戸惑う私の背中を強く押す。
そして、
「「「お帰り」」
中には、ケンとウルフと言われた少女が待っていた。
「お前たちは? 確か大きな屋敷に住んでいたんじゃなかったか?」
「ガルガル。ケンが売って、騎士誘拐事件の賠償金にしたんだよ」
「ばかっ! そういうのは言わなくていいんだよ! 何年か後に、バラして恩を着せるほうがいいだろ!」
「私もここに住んでいいのか?」
「ああ! いい!」
と、ケン。
「私はもう苦しまなくていいのか?」
「もう苦しまなくていいのよ」
と、アリシア。
「ありがとう」
私は小さく、弱く、声を出した。口腔からこぼれるようにして出た声は、まるで風の音のように薄く小さかった。アリシアは私の肩に手を置いて、
「お礼なんて言わないでよ。友達でしょ?」
生まれた初めてできた友達は、膿んで腐った心の穴をそっと優しく塞いでくれた。
私は懐からクレヨンで描いた絵を引っ張り出した。歪んだ線で描かれたのっぺらぼうの私だ。
どうしても笑顔を書くことができなかった。どうしても無理だった。人の笑顔を見るのが苦しかった。辛かった。自分が他の人と同じように笑うことができないことが、辛くて仕方がなかった。
だけど今なら描けるような気がする。そして、私は笑顔を描き足した。あれだけ望んでも描けなかったのに、嘘のようにすらすらと描けた。
ぐちゃぐちゃに乱雑に描かれた笑顔は、他のどんな笑顔よりも美しかった。
子供が描いたような絵は、幸福を押しかためているみたいに輝いて見える。
そこには描けなかった笑顔が確かに描かれた。
絵に描いたような幸せそうな笑顔の絵だった。
そして、その絵は現実になった。