何だあのバカどもは!
「本当だ! 私の金がない!」
「本当だ! 俺の金がない!」
と、ウルフ。
俺は魔法の国の使者の方を向いて、
「ふざけすぎました。ごめんなさい。俺たちがふざけて騒ぐから、金を没収したのですよね? 反省しています。今度こそふざけるのはやめて仕事の話をしましょう。そして俺の金を返してください」
「仕事の話はしましょう! でも、金をとったのは僕じゃないですよ?」
(ん? こいつでもない?)
ということは――
「お前かー!」
俺は部屋の隅でうずくまるサイコバカに駆け寄る。サイコバカは何かを抱え込む姿勢で蹲っている。絶対に俺の金が入ったトランクだ!
「お前の金じゃないんだよー!」
必死で引き剥がそうとするが、ピクリとも動かない。
「これは私のお金よ! 私は七面鳥をお腹いっぱい食べるのが夢なのよ!」
俺はアリシアの服を掴んで引っ張る。だが、アリシアの金への執着は凄まじい。金を離す気配が微塵も感じられない。まるで金と一心同体だ。
「それならたった今食ってただろ! っていうか食いかけがテーブルにあんだろ! あれを食えよ!」
「いやよ!」
「なんでだよ! お前の考えていることは、ひとつたりとも理解できないんだけど!」
「あのう――そろそろ仕事の話を――」
使者をシカトして、
「おい! 私も手を貸すぞ!」
「俺も手伝う! がるる!」
俺たちはさっきまでのイザコザを忘れて、一致団結した。
「おい! 水酸化ナトリウム水溶液を持ってこい! アリシアをドロドロに溶かして殺そ――」
「はい! どうぞ! ガルガル」
ウルフは食い気味で、用意していた液体を俺に渡す。
「えっ? 本当に俺に渡すんだ?」
ウルフの目はマジだ。こいつ……殺る気だ! マジか!
「ほら! 私も作ってきた!」
アルも水酸化ナトリウム水溶液を俺に手渡した。こんなにいっぱいいらねーよ。っていうか骨も残す気ないよね! こっわ……
ってかさっき“持ってこい”って言ってなかったか? 気のせいか?
「お前ら準備いいな……っていうかこれを使って、さっきマジで俺を殺そうとしてたんじゃ……」
「「…………」」
黙り込む二人。そして、何事もなかったかのように、
「ボサッとしてないでアリシアを私の金から引き剥がすぞ!」
「ケンも見てないで手伝ってよ! 俺の金が取られちゃう! ガル」
「おおい! お前らさっきの間はなんだよ!」
「ケン様……仕事を受けてくれないのならその金は没収しますよ。いい加減にしてください」
と、使者。
「おい! そっちをもて! 三人がかりでこのバカを金から引き剥がす!」
「「がってん!」」
「行くぞ! せーの!」
「「「うおおおおおお!」」」
そして、ついにアリシアから金を奪い取った。そこからは、血で血を洗う戦いだった。
「殺せー!」「ぶっ殺してやる!」「殺す殺す殺す殺す」「殺す気持ちイイ殺す気持ちイイ」「皆殺し」「殺す殺す殺す」「腸を引き摺り出してやる」
金をめぐって殺し合う俺たちを見て、ついに使者がブチギレた。
「おい! いい加減にしろよ! あんたたちが依頼を受けない限りその金は依頼主のものだ! っていうかあんたら仲間じゃないの? さっきから見てたけど、普通に武器使っているよね? あんたたちの評判はいいし、強いってよく聞くけど、バカばっかりってのは本当だったんだな! 依頼の話に入らないのならもう帰る。さあこれが最後のチャンスだ! どうする?」
俺たちは互いに顔を見合わせた。視線を互いに突き刺し合う。そして、我に返った。
立ち上がり、使者の元へと行く。
そして――ニコっ! 満面の笑みを見せた。
「ようやくわかってくれたみたいですね。では早速依頼のお話をしましょう! む? なんですか?」
俺たちは使者の肩に手をかけて、歩き始めた。
「依頼の内容なんですが、魔法の国の王様であるおうたま様が――」
バタン。使者は家の外に追い出された。
家の外で、使者はドアを見つめながら、
「なんなんだあの人たちは……ほとんど山賊じゃないか……バカばっかりって聞いていたけど、バカなんて次元じゃないだろ。全員頭がイかれているんじゃないのか?」
ドアに向かってひたすら喋る。
「っていうか僕は、強奪にあっただけなんだけど……何をしにきたんだ? っていうかこのドア椅子でできているのか? マジで頭がおかしいだろ……っていうか前金って言っているじゃんか、仕事を終えればあとの二億マニーも貰え――」
その瞬間、バターン! 勢いよくドアが開いて、使者は椅子の家に引きずり込まれた。




