ケン
アリシアは悲しそうな顔を向ける。涙のような何かが頬に見えた気がする。
「やっぱり。お前はパワーワードの産物なんだな?
最初に会った時から変だと思っていた。
やたらパワーワードについて詳しいし、他人からの拒絶されかたが異常だった。
まるで何かの呪いにでもかかっているようだった。
答えろ! お前はパワーワードの産物なんだな?」
アリシアは何も答えない。俺の声にウルフの笑い声が混じり、朝焼けの静寂を汚す。
「お前は両親に育児放棄されて捨てられた。
そうだな?
あれはウルフと同じような状況だったんじゃないのか?
お前も両親に、『いらない子供が欲しい』とでも願われたんじゃないのか?
だからお前は友達を作ることができなかったんだ!
いらない人間として生まれたからみんなに嫌われていたんだ」
そして、アリシアは悲しみに悲しみを重ねて塗りたくったような顔をした。
「もしそうなら俺がお前を生み出した奴を、生き返らせてでもぶん殴ってやる!
絶対に許しちゃおけない!
俺の友達を傷つけるやつは俺が絶対に許さない!」
間違いない。アリシアはパワーワードの産物だ。だがアリシアは何も答えない。
「どうして黙っている? 答えてくれ! お前がパワーワードの産物なんだな?」
静寂の中にウルフの笑い声だけが嫌に響く。
「アリシア?」
そして、遂にアリシアは口を開いた。
「いいえ。あなたがパワーワードの産物なのよ」
激しい音を立てて世界が軋む。
錆びだらけのこの世界は残酷だ。
いつもいつだって不幸が頭から浴びせかけられる。
どれだけ幸福なことがあってもすぐに不幸に真っ黒に塗りつぶされる。
それはまるで一枚の絵。
黒く塗りつぶされてそこからは何も感じ取ることができない。
それはまるで生きた絶望の腹の中のような色だった。