サイコバカ
[おさらい(簡単な登場人物と造語の説明です。読み飛ばしても構いません)]
『味方サイド
ケン 実年齢は四歳。アリシアの空想の友達。水を操る。ドラゴンナイト(竜人)になれる。空想状態(透明人間みたいなもの)になれる。
アリシア 炎を操る。銀髪。蜂蜜色の目。
アル 両手両足がない金髪女騎士。絵を操る。ハイデルキアの姫だった(破門された)。
ウレンケル 黒髪黒目。ケンたちの仲間。手にはめた指人形を使って喋る。
ウルフ ガキンチョ。狼人間。変身能力がある。
レオリア ウレンのおばあちゃん。
前竜王 三つ首の金龍。最強の存在だったが、後述のダーク・クーザに殺害された。
敵サイド
ダーク・クーザ ウェーブの白髪。正体・能力ともに不明。現在の竜王。こいつがハイデルキアに攻めてくる。
“どす黒い光” 敵チームの団体名。目的不明。構成人数不明。
エディフィスドラゴン 前前竜王の息子。頭から大砲が生えて、全身武器の竜。ケンに敗れた。
敵か味方か不明
創造主様 ケンと同じ顔をしている。正体・能力ともに不明。
造語
パワーワード電話 遠く離れた人と通話ができる能力。誰でも使える。
パワーワード予知 未来予知。頑張れば予知は回避できる。誰でも使える。
パワーワードの限界 全部で四段階ほどある。要は異能のレベル。
超ざっくりとしたあらすじ
ハイデルキアが何者かによって滅ぼされる未来が見えた。ケンたちはその未来を変えるために、隣国と同盟を結ぶ。
前巻では、ケンが一億円の借金を“なろうの国”から背負った』
第七巻 魔法の世界
序章 ホームレスの家
空腹感が俺の腹で叫ぶ。体内で生成された“食への渇望”は、大きく強くなる。
今にも、腹の内側から食欲に食い殺されそうだ。
腹を向いて唸る欲求は、俺の神経を行ったり来たりする。
往復する電気信号は、命の危機を伝える。
脳内で泡立つ空腹は、徐々に苦痛に変わってくる。
腹が減った。腹が減った。腹が減った。何か食べたい。
グギュルルルルル
腹の底から俺を呼ぶ声がした。
胃袋から溢れた音が、『何か胃に入れてくれ』と、俺にはそう聞こえた。
「お腹がすいた……」
俺は、前回のなろうの国で一億円の借金を負った。だから食べるものがない。
「ガツガツ! 美味い! この七面鳥は美味い! ガツガツ! なあ! ケンこれは美味いぞ! ガツガツ!」
と、俺の目の前で巨大な七面鳥を食べるアル。ガツガツって咀嚼音、漫画以外で聞かないだろ。っていうかこいつわざわざ声に出して口で言ってやがる……腹たつ。
「ガツガツ! 美味いっ!」
なぜか俺の目を見て言うアル。俺の目を見ていう必要ないだろ。
「はふっ! はふっ! にゅるにゅる! にゅるにゅる! ケン! これ美味しいわよ!」
七面鳥を食べながらアリシア。にゅるにゅる? にゅるにゅるってなんだ? こいつは何を食っている時の効果音を表現しているんだ? こいつだけ何をしようとしているのか皆目見当がつかない。
頭大丈夫か? 心配になってきた。
「ガッガッガ! 美味すぎる! 程よく油が乗っていて、程よく美味い! ケンも参加費払えば食べていいよ! がるる」
と、ウルフ。
「いや、俺は……」
「「「あー! そっかー! ケンはなろうの国に一億の借金があるから無理かー!」」」
と、声を束にする三人。顔は満面の笑み。アリシアに至っては爆笑している。
「うん……俺はみんなが食べているのを見ているよ……」
「あー! そっかー! ケンはなろうの国で女遊びをしまくったから、金がないんだ!」
と、アル。
「うん……俺はハーレムしたから金がないんだよ……」
「あー! そっかー! ケンはなろうの国で散財したから、俺たちの家が一時差し押さえされたんだったー!」
と、ウルフ。
「急になんだよ……」
「あー! そっかー! ケンはなろうの国で贅沢三昧したから、私たちはホームレスになったんだ! 今いる家はホームレスの家だ!」
と、アル。お前居候のくせになんで偉そうなの? 俺の家に勝手に住んでるんだよね?
「ちょっと! みんな! あんまりケンをいじめると可哀想でしょ! 私はケンの味方だからね! 私たち友達でしょ! お腹すいた?」
さっきアリシアも爆笑してたような気がするけど……
「うん! すいた!」
七面鳥が食べたい。七面鳥が食べたい。本当にお腹がすいた。ここ数日間は、食べられる草しか食べてない。
「はい! どうぞ!」
「ありがとう! ん? 何これ?」
アリシアが手渡したのは、一枚の紙切れだった。
「ちくわの写真をあげるわ。これを好きなだけ眺めて!」
「せめて七面鳥のにしろよ……」
俺はちくわの写真を眺めて、楽しんだ。あれ? 結構楽しいかも? 意外。
「ふわー。七面鳥美味しいー! もう一回言うわ! 七面鳥はすっごく美味しい!」
アリシアが俺の目をがっつり真正面から見ながら言った。こいつ後で泣かす。
アリシアは手に持つ手羽先をかじりながら、
「ズズズズズズっ! うん! 手羽先最高!」
「そんな効果音でねーだろ! もう我慢の限界だ! 寄越せ!」
俺はアリシアに飛びかかった。そして、手羽先を取り上げて、思いっきり噛み付いた。
「ぎゃあああ! 痛い痛い痛い痛いわ! なんで私の手首に噛みつくのよ! 手羽先完全に私から取り上げたんだからそっちを食べてよ!」
俺は右手に手羽先を持ちながらアリシアの手首に噛み付いた。
しばらく痛めつけて――
「思い知ったか! 俺を馬鹿にするからこうなるんだぞ! 俺をいじめるからこうなるんだぞ!」
アリシアの手首には、はっきりと赤い跡がついた。めっちゃ痛そう。プー! ざまあ。
「おい! やりすぎだぞ。アリシアもケンに怒っていいぞ!」
と、アル。
アリシアは顔をあげて、俺の顔を見る。
(お! なんだ? 怒るのか?)
そして――ニコっ! 満面の笑みを見せた。
「「なんでだよっ!」」
笑ったふりをして怒っているとかでもなさそう。単純に幸福の笑顔だ。
「おめーの頭の中は一体どうなっているんだよ! なんで急に笑顔になんだよ! こええだろ……」
ニコっ! アリシアは満面の笑みのまま微動だにしない。
「おい! アリシアはなんで黙り込んで笑っているんだ? サイコパスにしか見えない」
と、アル。
「こっちが聞きたいよ。こいつ頭沸いてんじゃね?」
ニコっ! アリシアは満面の笑みのまま微動だにしない。
こえええ……
怒るなら怒れよ。っていうかなんで一言も発しないんだ? ただ黙って笑うってサイコパスよりも何考えてんのかわかんねーよ。
ニコっ! アリシアは満面の笑みのまま固まってこちらを見る。




