一撃で終わらせる
[ケン視点]
「ついに勝ったんだ……」
俺は遠い目で、青い空を仰ぐ。戦闘後の静けさは緩やかに体表を滑る。
「ケン! やったわね!」
と、アリシア。さっきまで敵の味方をしていたよな?
「お前なら勝てると信じていた」
「ケン! おめでとう!」「めでたいねえ」
と、ウレン。アルと一緒にこちらに向かってきていたのだろう。
「ガルガル。お疲れ!」
と、ウルフ。こいつもアルと一緒にこちらに向かってきていたのだろう。
そして、
「どうやらアンチなろうに勝ったようですね」
と、王様がやってきた。手にはもちろん……
「ケン神様! おしぼりです」
「サンキュ!」
俺はおしぼりで血を拭った。血を吸ったおしぼりは、紅葉のように激しく染まった。ぐろっ。
王様はヤンキーを見ると、
「またあなたですか? いい加減懲りませんね」
近寄って行って、ヤンキーから猿ぐつわを外した。
「おい! 王様! 猿ぐつわしとかないと危ないぞ!」
王様はこちらに右手を向けて静止させる。
「来るな。わし一人で十分じゃ」
何このかっこいい人。
「クッソー! おじんまで俺をバカにすんのかー! くそったれ! 俺のピンチは最高の逆転劇を生む! ピンチこそがチャンスだ!」
『パワーワードを感知しました。まさおの能力が上がります』
こいつまさおって言うのか。
「って言うかそんなこと考えている場合じゃない! 王様! パワーワード使いはピンチに追い込んじゃダメだ!」
まさおは激昂しながら、立ち上がる。今にも憤死しそうなほど怒っている。怒りが湯気のように空に登る。
「わかっています。こいつ一人くらいそれくらいの“ハンデ”がちょうどいい」
何このかっこいい人。
「ハンデだとー? やっぱ、なろうの住人はくそだ! 一人残らず、ぶっ殺す!」
本気だ。今までとは、雰囲気が違う。本気で王様を殺害する気だ。
周囲の美人たちがマジの悲鳴を上げる。
「きゃああ」「王様、危ないわ」「あれって本気の殺意じゃない?」「本当にまずいわ」
どうやらこれは演技でもなんでもない。本物の恐怖からくるものらしい。
美人ちゃんたちは、恐怖に顔を歪めている。
『可愛い顔が台無しだぜ』って言いたいが、そんな雰囲気でもない。
「なろうはクソだ! クソ意外読まない! 読んでいるやつも、書いているやつも、揃いも揃ってクズばっかりだ!」
まさおは怒りを筋肉に埋め込む。こいつはヤンキーらしく筋肉能力者だろう。みた感じ、感情などによって攻撃力などが変わるらしい。
王様は、何事もないかのように落ち着き払っている。戦いの前の達人みたいだ。何このかっこいい人。
「都合の良い展開に、非モテ男の自己満足ハーレム。こんな小説いくら読んでも現実のてめーらはずっと負け犬なんだよ!」
まさおは大声で叫ぶ。ヤイバのような声色が空気を汚す。
「現実の世界じゃ生きていけないような、“なよなよ野郎”が大っ嫌いなんだよ!」
まさおの筋肉が山のように隆起し始めた。盛り上がる丘が両肩にそびえる。胸はギチギチ音を立てながら膨らむ。太ももはパンパンではち切れている。田舎のヤンキーレベルマックスみたいだ。
「お前らは、チート能力に頼らないと、何一つ成し遂げられないんだよ!」
まさおの努力の象徴である筋肉は、音を立てて破裂する。本気で王様を殺す気だ。
「小説家になろう? お前みたいなカスに、なれるわけないだろっ!」
まさおは両手を目の前に構える。大砲のように筋肉が澱む。ゴムのように脈打ちながら赤く火照る。
「ふむ。面白くなってきやがったな……」
と、余裕綽々の王様。
「死ねえええええええええええええええええっ!」
そして、筋肉の繊維を体外に解き放った。
赤い筋繊維は、努力の証。何度も何度も現実の世界で、痛めつけた己の体。
ぶつかるたびに、傷つくたびに、大きく強く変化する。
傷ついて、傷ついて、そのたびに成長していく。そのすべての努力が王様に向かって鶴のように伸びていく。
一本一本のムチはしなり、空気をヒュンヒュンと割いていく。あれを食らったら間違いなく手足は吹き飛ばされる。首や胴体に当たれば、その部分が吹き飛んで即死。
どこに食らっても致命的なダメージを食う。
「王様ァーーーー!」
王様はこちらを振り返ることなく、
「一撃で決める……パワーワード発動。“小説家になろう”」
ただの一言で、攻撃をかき消した。
どごおおおおん!
衝撃音とともに、何かが爆発した。




