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この小説は絶対に読まないでください 〜パワーワード〜  作者: 大和田大和
第一巻 第二章 椅子の家
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パワーワードの産物

「お前達の()()だ」

どこからともなくウルフの声が聞こえてくる。


「え? まだ生きているの?」

「まずい。仕留めきれなかったみたいだ!」


パワーワード使い同士の戦いで、相手を窮地に追い込むのはご法度。

必ず一撃で仕留めなければならない。


なぜならば、言葉一つで容易に逆転されてしまうからだ。


ウルフの声はウルフの口から聞こえてくる。

もう完全に物理現象など追いついてこれていない。

上半身と下半身に分断されたその間の三メートルほどある何もない空間から声が聞こえてくる。


きっと、今現在はここがウルフの口内ということになっているのだろう。

ウルフは事あるごとに自分の口に関するパワーワードと使っていた。


パワーワード使いにとって口が最も重要な器官だと意識してのことだろう。


「俺は絶体絶命の状態から逆転する!」

と、ウルフが高らかに勝利宣言する。

『パワーワードを感知しました。ウルフの能力が向上します』


「まずい! アリシア本当にやばい!」

「ど、どうすればいいのっ?」


「俺は不可能を可能にする」

『パワーワードを感知しました。ウルフの能力が向上します』


「もうダメだ。本当に俺たちの負けだ!」

「じゃあ私たちもピンチになりましょう!」

「もう遅い。次の一撃で俺たち二人とも()()だ! もう本当にどうしようもない」


「俺の不利は有利だ」

ウルフのしゃがれ声が俺たちの鼓膜を舐める。

『パワーワードを感知しました。ウルフの能力が向上します』


「そんな。こんなに頑張ったのに!」

「ダメだ。俺たちの負けだ」

俺は俯く彼女の顔を見て、

「アリシア?」

「何?」


「俺は知る由もないことを知る。知っているはずのない、思いつくはずのない逆転の糸口を思いついた!」

もうウルフも理解したのだろう。この勝負はウルフが勝つ。

『パワーワードを感知しました。ウルフの能力が向上します』


「アリシア、俺たちずっと友達だよな?」

「うん! 私たちは死んでも友達よ!」


「この世界に来てよかったよ。アリシアに、みんなに会えて本当に良かった」

「ケン。私、実は--」

アリシアが何か言い掛けたその瞬間、


「な、なんだ()()はっ! 信じられない。()()()()()があるのか?」


ウルフが驚愕の事実を知った時のような声をあげた。


ウルフは戸惑う俺たちに、

「おい! アリシアといったな。アリシア。お前とんだ()()()だな」

ウルフは上下に分断された声帯を大きく震わせて笑い始めた。


「グルルルル。あはははははは。ハハハハハ!」


「なんだ? なんで笑っている?」


「その女に聞いてみろよ」


「なんだ? どういうことだ? アリシア?」

アリシアは見たこともないような表情でこちらを見ている。

この表情は罪の意識を背負った人間の顔だ。

張り付く緊張感が自分の窮地を忘れさせる。

「アリシア? どうして何も言わない? ウルフは何で笑っているんだ?」


「あーハハハハハ。ハハハハハ。クックック」

ウルフはさらに嬉しそうに笑う。存在しないはずのウルフの喉は笑い声で張り裂けそうだ。


「アリシア?」

アリシアは何も答えない。


「ウルフ? どういうことだ? アリシアは何を隠している?」


「アリシアに聞けよ。()()()()()()()()()について聞け!」

ウルフの声の届く先が俺からアリシアに変わる。


「おら! アリシア! お前が言わないなら俺の口から言うぞ! 

俺のこの存在しない口からな!」


「アリシア? パワーワードの産物ってなんのことだ?」


俺はパワーワードの産物についての知識を思い出した。()()()()()()()()()とはパワーワードによって生み出されたものの呼称だ。


例えば、牛乳のダンジョンとかだ。

あれはパワーワードの力によって結晶化した牛乳をくりぬいて作ってある。


だが牛乳が通常の温度で結晶化することなどない。

パワーワードの力を借りて結晶化した牛乳はパワーワードの産物だ。


ちなみにあのダンジョンを作ったのはアリシアの両親だ。

それがきっかけでパワーワード使いが増え、同時にモンスターも増えた。


だからアリシアは街の人たちに忌み嫌われて、悪魔の子と呼ばれていたのだ。


さらに、俺たちの敵であるウルフやその辺にいるモンスターもパワーワードの産物なのだ。


ウルフは、両親に『欲しくない子供が欲しい』と言われて生み出されたのだ。


だから通常親が欲しがらないような格好(狼の格好)で生まれてきたのだ。


その辺にいるテッポウナギなども同じようにして生まれた。


ウルフもモンスターもパワーワードの産物だ。


パワーワードの産物の共通点は一つ。物理法則、自然現象を無視しているため自然界には存在しないのだ。


「アリシア? 答えてくれ。なんでウルフはお前にパワーワードの産物について聞けと言った。アリシア! 

お前もパワーワードの産物なんじゃないのか?」


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