夢の終わり
「ギャハハハハ。ここがなろうの国かー。けっ! 右も左も美人ばっかり。男もババアもいねえ。不自然すぎるだろ。ご都合主義も甚だしいぜ!」
と、金髪の馬鹿ヅラ不良。
「『大したことないですね』、『そのまさかですよ』、『俺なんかしちゃいました』っていう主人公がいるんだろっ?」
銀髪のアホヅラ不良。
「何それーめちゃうけんね!」
と、ガングロギャル。
「おい! あれみろよ! あいつ! あいつじゃね、この国の主人公役の男。確か……ううん名前が思い出せねえや!」
金髪が俺のことを指差しながら、ボソボソ言っている。
「あいつらは……」
と、唇を噛み締めるもえ。
「ん? 何? どしたの?」
「あいつらはアンチなろう。なろう小説を徹底的に嫌って、ボコボコにこき下ろす連中よ」
「なろう小説の主人公なんて覚えるに値しねーよ! 名前の最後に太郎をつければ十分。だからあいつは“ケン太郎”だ!」
え? ケン太郎って俺のこと? もうそれ別人の名前になってない? っていうか俺の名前完全に知っているよね? 知っているふりして小馬鹿にしているよね?
俺は小声でもえに、
「ケン太郎って何?」
「お兄ちゃんのことよ。なろう系小説の主人公の名前なんて覚える必要なし。だから〇〇太郎で十分ってこと。要するにバカにされているんだからね」
「え? 俺なんかした?」
そんな俺にアンチなろうたちが近寄ってくる。
「よー。主人公さんよ! おめえまじきめーんだよ!」
「つーかうぜっ! 速攻死んでくんない?」
「何それーめちゃうけんね!」
と、俺の顔を指差しながらギャル。
「お前ら俺に何か文句あんのか?」
つーか誰だよこいつら……
「大有りだ! てめー! インキャのくせに、ヒーロー気取ってんじゃねーぞ! カス!」
「現実の世界に居場所がないからって、こんなごみためみてーなとこに逃げやがって!」
「何それーめちゃうけんね!」
「何の話だ? 今日初対面だよね?」
「うるせー! 俺はなろう系の主人公が全員嫌いなんだよっ! どいつもこいつも口を揃えて『異世界転生!』『リセット!』って、どんだけ現実逃避がしてーんだよ!」
「だいたいヒロインが全員主人公にだけ高感度マックスって、ご都合主義すぎるだろっ!」
「それに、チート能力なんてあるわけねーだろ! ばあああか! しね! しね!」
「何それーめちゃうけんね!」
と、ギャル。俺の顔を指差している。うぜ。ってかボロクソ言い過ぎじゃね……
俺は、“やれやれ”という表情で、両方を竦めて見せた。これが漫画だったら“やれやれ”という効果音が空中に表示されていることだろう。そして、
「やれやれ」
「うっわー! こいつうっぜー! やっぱなろう系は無理だ! 鳥肌もんだ!」
「なろう系の主人公ってみんなこいつみたいにウゼーの? マジ殺したくなっちゃうぜ!」
「いいえ! こんなにうざいのはお兄ちゃんだけです!」
と、元気よくもえ。
「え? 俺のことうざいって思ってたの?」
「お兄ちゃんはこの国に来たどの主人公役よりもうざいです!」
「え? もしかして今までずっとそう思ってたの?」
俺はおろおろしながらもえに聞いた。




