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この小説は絶対に読まないでください 〜パワーワード〜  作者: 大和田大和
第一巻 第二章 椅子の家
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逆転

アリシアは、揺れる炎を空気中に生成。そして、

「炎よ! 割れろ!」


その瞬間、赤熱する火炎球はひび割れて鋭い刃のようになった。


割れた炎の破片はガラス片のようになり一斉にウルフに襲いかかる。炎のガラスのシャワーはウルフ達を切り刻む。

「ぎゃあああ。熱い! なんだこれは! ガラス?」

裂傷ができた箇所から発火している。


「怯むな! 行け!」

後列の方にいたウルフ達が警戒しつつ襲いかかってきた。


「ケン!」

「任せろ!」

俺は空気中の水分を集め、

「水よ! ()()()()!」


次の瞬間、空気に浮かぶ水の塊が細く鋭く尖り始めた。


鋭利な刃物のようになった水はそのまま水平に落雷した。

水の雷はウルフどもを薙ぎ払う。


水がかかった箇所からは死体を焼くような焦げ臭い匂いが漂う。

「あがあああ。痺れる! なんなんだ一体!」

俺とアリシアは背中合わせになり、剣を構える。


()()() ()()()()!」

()()() ()()()()!」


一斉に互いの背後を庇い合うように攻撃した。

アリシアの攻撃した方向にいたウルフには液体になった炎が飛び散った。


「なんだこの液体? 濡れた箇所が燃えているように熱い!」

俺が攻撃した方にいたウルフには、透明な水が襲いかかる。


水は空気中を滑るように飛び薙ぎ払う。ウルフに当たるとウルフの体が透明な炎によって燃え始めた。


「なんだ見えない炎? いや水が燃えているのか!」

ウルフどもは大きく怯み、先ほどの俺とアリシアの台詞は現実のものとなる。


「パワーワード使い同士の戦いでは、相手を一撃で倒すのがセオリー。

そうしないとパワーワードで逆転される。

パワーワード使いにとって不利な状況とは有利な状況のことだ!」


「お前達! 怯むな! ガルルルル! お前達もパワーワードを使え!」

ウルフは分身どもに指令を出す。


「俺の体は目に見える透明な体だ!」

その瞬間、一匹のウルフが透明になった。

だがなぜか目に見える。

透明になって視界からは完全に消えたのになぜか知覚できる。


そこにいるとはっきり視神経を通して感じ取ることができる。

透明なウルフが目に見えるのだ。脳が壊れたみたいだ。



「俺の右手は導火線だ!」

そういったウルフの右手には、先ほど俺が灯した透明な炎が見える。

その炎が徐々にウルフの肩に登っていく。

おそらく自爆するつもりだろう。

右手が導火線だということは、体が爆弾になっているはずだ。




「俺の自殺は他殺だ!」

そのウルフは自分で自分の右手を犬歯で切り裂いた。

まるで狼版のリストカットでも見ているようだ。


その瞬間、アリシアの右手首から犬歯で切り裂いたような傷がついた。

ウルフの行った()()()()がアリシアを傷つけたのだ。



「俺の顔はケンの顔の中にある!」

俺の左手のウルフがそういった瞬間に、そのウルフは顔を失って地面に沈んだ。

顔がなくなった箇所にはのっぺりとした何もない何かがある。そして、

「よう!」



俺の顔に違和感を感じた。

地面に溜まった炎の水たまりに移った俺の顔を見ると、そこにはウルフの顔があった。

俺の右頬から耳の後ろにかけて顔が生えているのだ。


その顔は俺の首に噛み付いてきた。

まるで俺の頬が乗っ取られてみたいだ。


一気に形勢が不利になる。だが先ほども言ったようにこの状況は非常に有利な状況だ。


パワーワードさえ使えれば、必ず逆転の可能性はある。


俺は、

「アリシアの右手の出血は、血の出ない出血だ!」

と言った。その瞬間、アリシアの出血は止まる。

開いた傷口からはいつの間にか血が消えていた。


アリシアは、

「ケンの顔にあるウルフの顔には私の顔がある!」

自分の顔を、俺の顔にあるウルフの顔にさらに上から移植した。


「ケンの顔から出てけっ!」

アリシアがウルフに噛み付くと、ウルフは俺の顔から出て行った。


アリシアが元の状態に戻ると、先ほどのウルフの導火線はもう肩まで登っていた。


そして、ウルフの狼爆弾は爆発した。


だが、

「爆炎が咲き乱れる!」

アリシアの台詞とともに、ウルフの体から爆炎の代わりに一輪の花が咲いた。


炎でできた花は巨大な花弁をいくつも有している。


美しい爆弾は爆発の瞬間で時を止めたように華麗に咲いた。

俺は先ほどから視界に映る透明なウルフを探した。


「くそっ! 見えない! そこにいることだけは知覚できるのに、網膜には何も映らない!」

そして、そのウルフは飛びかかって襲ってきた。


「水が地面から勢いよく生えてくる!」


その瞬間、地面から結晶のように固まった水が針のように突き出てきた。

その針は何もない空中にある何かを突き刺した。


依然として俺の目には何も映らないが、水には一筋の血が流れる。


きっと見えないウルフに当たったのだろう。


見えない何かに透明な水が突き刺さる。異様な光景だが気にしている余裕などない。


「何をやっている俺供! もういい! 俺がやる! ガルガルグルル」

群れの中から一際大きいウルフが前に出てきた。


こいつが本体で間違い無いだろう。

「アリシア! 行くぞ!」

「ええ! 一撃で仕留めましょう!」


俺は周囲に存在する全ての水を勢いよく燃やした。

水は飛沫を上げながら火炎を撒き散らす。


透明な水が湯気と蒸気を放ちながら炎のようにメラメラと空気中に浮かぶ。


アリシアはその水炎をさらに勢いよく燃やす。

俺の力にアリシアの力が加わっていく。


重ねられた力は、俺たちの思いは勢いをあげてうねる。


やがて、空中に一つの巨大な双剣が生まれた。片方は透明な水の炎。


もう片方はマグマのように液状化した炎の水。


そして、それら二つの双剣は根元の方でくっついている。二人で使う一本の双剣だ。


炎熱が青く燃え、水冷は赤く輝く。


燃える水と濡れた炎がその色合いをより一層濃く激しいものにした。


この一本の双剣は、まるで昼と夜を一つに押し固めたようだ。


決して混ざることのない二つの物理現象が一つに溶け合い混じり合う。


周囲の空気は、燃えればいいのか、濡れればいいのか戸惑い始めた。


世界の根幹を成す物理現象にもし顔があるのならどういう顔をするのだろうか? 


今、この瞬間、まともに機能している物理法則などない。


風が炎に当たって濡れる。朝焼けが水に当たってさらに燃える。


周囲の空気は熱と冷を同時に含んでいる。

熱い水が肌を焼き、冷たい炎が体の芯を凍らせる。

熱いけど寒い。赤いけど青い。炎だけど水。


「いくぞ!」


「俺の口から肛門までが俺の口だ!」


ウルフは口を臀部まで開き飛びかかってきた。

俺とアリシアは全身に力を込めて二人で双剣をギロチンのように振り抜いた。

一瞬の刹那は永遠だった。

斬撃の瞬間、停止した時が俺たちの世界を固める。


そして、そのまま永遠の世界に入り込む。時が止まったまま俺たちは、今までの何もかもを思い出す。


辛かった思い出も楽しかった思い出もいくつもが頭の中で爆ぜていく。


そして、終わらない永遠は終わった。


時は再び動き出す。


ウルフの体は一刀両断されて上顎と下顎に完全に分断されている。


ウルフが左右に飛び散った後、分身供は消えていなくなった。


もう維持ができなくなったのだろう。






ウルフは完全に無力化された……………………ということはつまり俺たちは完全()()したのだ。


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