出世
その時だった――
「きゃあっ! 目眩が!」
モブの女の子がふらふらと倒れそうになった。
シュッ――
俺は一瞬で背後に回り込んで、女の子を片手で受け止める。
「わひゃあ! ありがとうございます!」
「俺、なんかやっちゃいました?」
「困っている女の子を見ると体が勝手に動くんですね! 素敵!」
「え? なんのこと?」
俺はめっちゃラブコメの鈍感主人公みたいにとぼけた。
別の女の子が、
「クロスワードパズルが解けないー」
シュッ――
「あれ? いつの間にか解けてる。なんで?」
「俺、なんかやっちゃいました?」
「ケン様は、クロスワードパズルくらい無自覚で解けるんですね! すごいっ!」
「え? なんのこと?」
俺はめっちゃラブコメの鈍感主人公みたいにとぼけた。
別のモブ子さんが、
「神様! 校舎が神様の力にあてられてぶっ壊れています……直していただけませんか?」
「ほいっ!」
俺はチート能力で直した。そして、
「俺、なんかやっちゃいました?」
「いや、今のは完全に自覚あるでしょ……」
と、モブの子。
そして、二時限目の魔術の時間は大盛況におわった。もちろん俺の一人勝ちだ。そしてここから俺の無双が続いた。
[三時限目 物理化学]
教卓に立つ先生は、
「ですから、相対性理論は、間違っていると言えま――」
教壇の先生を遮って、俺は、
「それは違いますよ。先生!」
「どういうこと? 相対性理論は今の説明で全部のはずよ? もしかして今までの定理を覆す新たな定理を今この場で気づいたとでも言うのかしら? そんなことただの人間にできるはずなんてないわ。絶対に無理よ! もしできたとしたらその人は……天才よ」
先生はお膳立てを整えてくれた。
「僕が一から相対性理論というものを説明してあげますよ」
俺は勝手に教壇に立つと、
「相対性理論というのはですね、時間が相対であるというだけの理論なのですよ。先生は難しく考えすぎなのです。ハハッ」
「相対ってどういうこと? わかりやすく説明してみて!」
「もちろんですよ。では、皆さん。大体でいいので体の目の前で十センチを指で測ってください。定規は使っちゃダメですよ」
女の子たちは半信半疑で、各々が思う十センチを作って見せた。
「ではこれを見てください!」
俺は定規を手で持って見せた。
「この定規で測る十センチが“絶対”。皆さんが手で測った十センチが“相対”ですよ! ハハっ」
「ベテラン教師程度ではどういうことなのかよくわからないわ! どういうことか説明して頂戴! お願い!」
先生は俺に縋り付くようにして懇願。
(自分でベテランっていうか?)
と、思いつつ、
「焦らないでください! 絶対と言うのは、ただ一つに決まっていること。相対というのは、“計測する人によって変わるもの”ってことですよ」
「わ、わかりやすい! ケン先生の頭の良さと知性が溢れ出て止まらないわ!」
「それな!」
と、言ってドヤ顔をした後、さらに俺は続ける。
「相対性理論というのは、この十センチの時間バージョンです。一秒という時間は、人によって長さが違うのですよ。ハハッ」
「そ、そんなことがあるっていうの? まさか時間の長さが人によって違うとでもいうの?」
と、先生。だからそう言っているだろ。
「僕は実際に原子時計というものをチート能力で作って計測してみました。その結果、時計は、計測する地点の重力などによって変わる、つまり“相対的である”ということがわかりましたよ。ハハッ!」
もちろん相対性理論の説明なんてこの世界に来るまで知らなかった。この世界に入った瞬間に頭に浮かんだ。このなろうの世界は、小説の中って設定だから多分、作者が調べたってことなんだろ。便利だなー。
相対性理論の説明が終わると、拍手喝采、スタンディングオベーションだった。中には白目を向いて気絶する女の子や、辞職する教師もいた。
そして、俺は教師兼生徒というよくわからない存在になった。これからの授業は全部俺が教壇に立って行った。
「先生それも違います!」「先生、ご冗談でしょう?」「先生、それは違うと思います」「先生、フェルマーの最終定理をご存知ありませんか? おや? ご存知ない?」
数学も外国語も全部一瞬で、頭の中に答えが浮かんでそれをスラスラと羅列するだけでよかった。先生は、黙って俺の授業を聞いている。なんだこれ? と、思ったが、ヨイショが楽しいので何も言わなかった。
そして、俺は魔術学園の校長になった。




