それな!
俺が立っている惑星だけは無事だった。ポツンと俺たちだけが銀河に取り残された。
真っ暗になった世界の中で、
「俺、なんかやっちゃいました?」
先生は、俺の肩を両手で掴んで、
「世界の……終わりよ……あなたがやったのよ……」
あたりは阿鼻叫喚の地獄絵図兼無限地獄になった。それを引き起こしたのは俺だ。
胸の中に罪悪感がこみ上げてくる。軽い気持ちでやったのに……なんとかなると思っていたけど、大惨事っぽい。どうしよ……
「もうおしまいよ!」
(ひいいいいい)
「私たち死ぬんだわ!」
(ごめんなさいいいい)
「全人類の死滅よ!」
(ご、ご、ご、ごめん)
「惑星の崩壊が……今、始まる!」
(まじごめん。許して)
「歴史は閉ざされた」
(ごっめーん)
「あんたどうすんのよ?」
アリシアが俺を責める。
「お前、責任を取れよ……私も一緒に謝りにいってやる」
アルも俺を責める。謝って済む問題じゃないだろ。
先生は両手で俺を掴んで、ガクガクさせながら、
「あなたやっちゃいけないことをしたのよ? わかる? ここは“なろうの世界”あなたが今まで暮らしてきた平穏な世界じゃないの。あなたのパラメータは全部マックス。完全無欠最強無敵なの。あなたには指先一つで世界を破壊する力があるのよ? だからちょっとミスをするだけで世界は消えて無くなる」
(どうしよう。どうしよう。どうしよう。どうしよう)
さっきまであんなに楽しくヨイショされていたのに、地獄に突き落とされた。
「あの……先生、俺どうすればいいですか?」
「どうすることもできないわ。みんなで死にましょう」
ひいいいいいいい。マジで? マジでどうにもならないの? 強すぎてこんなことになるなんて、なろうの世界を甘く見ていた。こんなにゲームバランスがぶっ壊れているとは?
ん? 待てよ――
「俺ってこの世界で一番強いんですよね?」
「そうよ? でも流石の貴方ももう終わりね」
「なら、指パッチン一つで全部かいけーつ。みたいなことってありませんかね? それは流石にちょっと都合が良すぎますかね?」
「なろうの世界をバカにしているの? 流石になろうの世界でもそんなことは絶対に無理よ! 指パッチン一つで全部かいけーつだなんて聞いたこともないわ! バカにするのも大概に――」
俺はうるさいのを無視して、パッチン!
その瞬間、天から瞳を焼き尽くすほどの光が降り注いだ。光の雨は地表を濡らす。はるか彼方の銀河では、新たな惑星がビッグバンを起こしながら息吹始めた。銀河系がみるみるうちに修復されていく。
綻びももつれも、全てが元どおりに収束していく。束ねられた平和への道は、寄り合いながら一つに向かう。
太陽が復活し、惑星は再び鼓動を始める。地表の隆起は何事もなかったかのように全部元どおりになった。大地の傷口も空の怪我ももう見えなくなった。
元どおりになった世界の中で、俺は、
「俺、なんかやっちゃいました?」
それを見て、先生は、
「世界は……救われた」
女の子たちは、
「信じられない」
(だろ?)
「ケンは私たちの救世主よ」
(よせやい)
「新たな歴史が……今、始まる」
(本当それ! 略して“ほんそれ”!)
「ケン様が新たなる創造主様よ」
(そ! 正解!)
その後、俺はいい気になって、水、風、土、雷、光、闇の全部で同じことをした。
俺がちっこい球を生成し、空に打ち上げるたびに世界が崩壊し、指パッチンするたびに、世界は創造された。
その度に、全女の子たちが俺のことを持ち上げた。これでもかというほど褒めちぎり、褒め称え、崇め奉った。まるで神様になったような気分だ。
水球をペイっ――「俺、なんかやっちゃいました?」
風球をペイっ――「俺、なんかやっちゃいました?」
土球をペイっ――「俺、なんかやっちゃいました?」
雷球をペイっ――「俺、なんかやっちゃいました?」
光球をペイっ――「俺、なんかやっちゃいました?」
闇球をペイっ――「俺、なんかやっちゃいました?」
俺は愚民どもに向かって、
「俺、なんかやっちゃいました?」
「ケン様ってなんでこんなに強いんですか?」
「強いだなんてよしてくれよ。僕は強くなんかないよ。普通だよ」
「普通? 普通なんかじゃないです! 凄すぎますっ!」
俺は、
「ですよねー!」
別の女の子は、
「世界がぶっ壊れちゃう!」
俺は、
「それな!」




