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この小説は絶対に読まないでください 〜パワーワード〜  作者: 大和田大和
第五巻 LGBTの世界
232/260

楽しい

「さ! 続いての転校生も紹介するわよ!」

そして、二人目の転校生が入ってきた。転校生はハーフエルフちゃんだった。俺の前に座った。

「あなたは今朝の! ふふっ! 席が近くて良かった。よろしくね!」

(ハーフエルフちゃんは、“最初仲が悪いけどその後徐々に仲良くなってついに彼女になるタイプ”ではないらしい)

「お前のことなんざ知るかよ! けっ! けっ!」


その後もゾロゾロゾロゾロ出るわ、出るわ。大量の転校生が教室になだれ込んできた。席に座りきれなくなって、後ろの壁際に立たされている。っていうかそれなら最初からもっと広い教室にしろよ。

「じゃあ最後の転校生を紹介するわね」

ガララララっ!

教室に飛び込んできたのは、よっぼよぼのじじいだった。じじいは俺を見つけるや否や、指差して、

「お、お主は今朝の!」

「え? 俺のこと知っているの?」

「知っているも何も今朝ぶつかったじゃろ! そのせいで遅刻じゃ! プンプン!」

「え? じいちゃん誰? ぶつかった記憶がマジでないんだけど……」

(うっわ。こんな展開もあんのか……なろう系ってすごいな。ラブコメにじじいが出てくるのか。このじじいもヒロインなのか……俺の知らない世界だ……)

俺がうろたえていると、先生がじじいに向かって、

「あの……あなた誰ですか?」

その後、じじいは警備員によって連行された。

「普通に不審者かよっ! ってかこわっ!」

今朝のホテルでも勝手に美少女が俺のベッドにいたし、この国セキュリティ甘くない?


「これで転校生の紹介は終わりになります。一限目が始まるから準備をして!」

っていうか俺も転校生っていう扱いのはずだよな? なんで全く紹介されないんだ?

「一時限目は体育よ! さっそく着替えて頂戴!」

と、コック先生。

「だからみんなジャージに着替えていたのか。俺もジャージに着替えるとするか」

すると、教室にいる女の子たちが一斉に立ち上がって、着替えようとしだした。

「え? なんでみんなまた着替えるの? 制服からジャージに着替えて、その後、制服に着替えて、またジャージに着替えるつもり? なろう系ってそんなにサービスするの?」

先生は、馬鹿面を受けべた俺に、

「一時限目は水泳よ!」

「じゃあなんで一回ジャージに着替えたんだよっっっっっっっっっ!」

その後、女の子たちがガチで教室で水着に着替え始めたから慌てて教室を飛び出た。流石に水着に着替えるのを覗くのはダメだ。なろう系でもダメだ。

俺はトイレに駆け込んで、個室で着替えようと思った。すると、

「きゃー! えっちぃ!」

「なんで女性トイレしかないんだよっ!」

俺は使ってない空き教室で着替えようと思った。すると、

「きゃー! えっちぃ!」

「なんで使ってない空き教室を使っているんだよ!」

俺はその後も学校中の教室という教室を覗いたが、それら全てで女の子が着替えていた。仕方がないから一度貴族にもらった俺の家に帰ってそこで着替えた。

すると、

「きゃー! えっちぃ!」

俺の家でも女の子が先回りしていて着替えていた。ってか人の家に勝手に入らないでもらえるかな……っていうかどうやって先回りしたの?


その後、学校に戻って滞りなく水泳の授業を終えた。

「ふああああ。たんのしかったなあ……」


そして、

「二時限目は魔術です! ジャージに着替えて、校庭に出てください!」

「また着替えか(笑) でもついにファンタジーっぽいのがきた!」


[校庭にて]

ジャージに着替えて、学校の校庭に出た。校庭は普通の校庭だ。地面は柔らかい砂土。微かな芝生が茶色のしとねの上に咲いている。時折、風が運ぶ砂埃が俺の体にぶつかって音を立てる。鼻に刺さる砂の匂いは、どこか心地の良いものだった。

「あ! いた!」

俺の元にどたどた駆け寄ってきたのはアリシアだった。

「ん? アリシアか」

「あんた教室で私がぼっちしていたときに、なんで助けてくれなかったのよ? 完全に一回目があってから逸らしたでしょ? つ、つ、つ、次にやったらデコピンするからね!」

「だー。うるさいな。お前もうちょっと頑張って友達を作る努力をしろよ! 生粋の生涯がちぼっちだからって、これからもそうとは限らないんだから」

俺たちがわちゃわちゃ言い争っていると、

「お、お、お、お前ら! 私も仲間に入れてくれないか……?」

もう一人のぼっち(アル)が来た。そういやこいつもずっと家族から省かれてぼっちだったな。俺はアルをスルーすると、

「だいたいアリシアは、机に突っ伏して寝たフリをしているから友達ができないんんだろ!」

「ケ、ケンだってまだ女の子の友達できていないでしょ?」

「お前たち、何で私を無視する? 今、完全に一回目があってから逸らしただろ?」

俺たちは、まるで本当の高校生になったかのようにはしゃいだ。それは楽しくて仕方がないものだった。

まるで俺たちの空虚な思い出を、後付けで色付けていくような。

これが本物の思い出ではないのはわかっている。だけど、それでも十分だった。今までの人生が辛すぎた。孤独の海に抱かれて、ずっと浮かんで沈んでを繰り返していた。水面でもがいても、助けを求めても、誰も来てくれなかった。孤独の中でずっと漂っていた。


俺たちに青春の一ページなんてなかった。ただ真っ白な思い出アルバムに、写真を入れるフィルムだけがある。そこに写真なんて一枚もない。あるのは、伽藍堂とした穴。そこにねじ込まれる血と悲しみ。

そんな虚しい思い出帳に、写真が初めて飾られた。それは、なんの変哲もない。ごく普通に生きていれば持っている写真。今、この瞬間をパリャりと撮ったものだった。

三人で笑う写真は、思い出の中に深く刻み付けられた。



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