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この小説は絶対に読まないでください 〜パワーワード〜  作者: 大和田大和
第一巻 第二章 椅子の家
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届かない手紙が届いた

[アリシアの記憶 傍観者視点]


続いてアリシアの記憶に浮かんだのは過去の俺の姿だった。

どうやら俺は、過去の俺の映像をアリシアの記憶を交えながら見ているようだ。

きっとこれから俺の中の記憶が、アリシアの記憶によって補完されるのだろう。


過去の俺は、机に向かうとロウソクに火を灯し卓上に置いた。


その横には()()()()()()()()()()()()がいる。


半透明で透き通っているが間違いなくアリシアだ。


「アリシアに手紙でも描くか」

(これは、俺がさっき手紙を書いていた場面だ。()()()()()()()()()()()()()()()()()?)

過去の俺はテーブルに出しっぱなしになっている白い紙に、筆を走らせた。


「アリシアへ。俺はたまにアリシアのことを頭に浮かべる。

だけど、俺の頭の中にいるアリシアは俺に何も喋りかけてくれない。

だからこうして手紙を書くんだ」

その手紙を過去の俺が書いている間、()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()


(信じられない)

宛名しか書かれていない不思議な手紙を見つめながら過去の俺は、

「こうすると、届かないはずの手紙が届いた様な気がするんだ」

と、一人で言った。


その姿は触れれば壊れてしまいそうなほど脆かった。

もう見ていられなかった。

孤独という圧力にぐちゃぐちゃに押しつぶされたような姿だった。

そんな過去の俺に、

()()()()()()()()()()

と、アリシア。


「ケンに聞こえていないのはわかっている。だけど、ケンが聞いているような気がする」


(ああ。()()()()()()()()()()()


しばらく過去の俺はペンを走らせると、突然手を止めて、

「またか」

どうやら頭に何も思い浮かばなくなったらしい。


それを見て、アリシアは、卓上のロウソクに手をかざす。

「炎よ踊れ!」


窓から差し込む光のような風()()()()、空想状態のアリシア()ろうそくの火を揺らす。過去の俺は踊る炎を見て、


「アリシア。お前に会いたい」


「ええ。私も会いたい。不思議ね。

こんなに近くにいるのに。

会っているのに会えない。

でももうすぐ会えるような気がするわ」


矛盾する一文とともに、アリシアの記憶は完全に途切れた。




[現在]


アリシアがこの数年間何をしていたかわかった。

ずっと俺と同じように孤独に耐えていたんだ。


今日のこの日のために。

今日、俺たちが勝てないウルフとの戦いに勝てるように。


パワーワード(たった一言)で人生を変えるために!


月明かりはもう随分と弱くなっている。

黒い闇を夜明けが舐めていく。


俺たちの周囲は完全にウルフ達に囲まれていた。


ウルフは先ほどと同じように分身を使い、俺たちのことを包囲していた。


絶体絶命のピンチだ。

「アリシア?」

「なーに?」


「絶体絶命だな」

「そうね!」

俺とアリシアは剣を構える。


真っ直ぐにウルフの方を向く。

ウルフが警戒しながらにじり寄る。朝焼けが俺とアリシアの姿をくっきりと照らしだす。


ウルフはその姿を見て、

「お前らイかれているのか? この状況でなんで()()()イヤがる?」

朝焼けが俺たちの体に刺さる。


「「人間は、人生のどん底を知っているから必死で這い上がろうとするんだよ」」

俺とアリシアは高らかに言い放つ!

「絶対に勝てない戦いに勝つ!」

太陽が地平線からその姿を現した。


「不死身を殺す!」

もう夜の闇は消えて失せた。


「不可能は可能だ!」

惑星の表面を陽の光が舐めていく。


「不利は有利よ!」

暗い影は一つ残らず焼きつくされた。


「百パーセント勝てない戦いで勝つ!」

欠けら程度の不安すらない。


「勝率零パーセントの状態で勝つ!」

陽の光は心をも温める。


「負けても勝つ!」

光が星を飲み込む。


「死んでも勝つ!」

二つの孤独は互いのことを抱きしめ合う。もうそこには苦しみなんてない。


「「絶対に勝つ!」」

『パワーワードを感知しました。ケンとアリシアの能力が大幅に向上します。これにより能力は上限に達しました。これ以上の強化は望めません』


そして、ウルフの分身達が一斉に襲いかかる。

「アリシア!」

「がってん!」


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