そのまさかですよ
「ど、どうしてじゃああああ? まさかお前……全属性の完全耐性をフルコンプリートで習得しているとでもいうのかっ?」
ジャロはやけに説明口調で説明した。わかりやすい。
「あなたはコンプリートしていないのですか? 大したことありませんね。僕は全属性を完全にコンプリートしています」
「ま、まさか。それだけじゃ飽き足らず、全スキルまでもフルコンプリートしているとでもいうのかっ?」
と、ジャロの説明口調。
「フンッ! 大したことありませんね。全スキルも当然フルコンプリートしていますよ」
「そ、そんな! ケン様、いやケン! 信じられないわ!」
と、羨望の眼差しのもえ。彼女の熱い視線が俺の体に注がれる。
「す、素敵」「すごすぎるわ!」「カッコ良すぎる」「きゃあー! 素敵! すごい!」
「まさかレベルは上限の9999だというのか?」
「そのまさかですよ! 僕のレベルは9999です」
じゃあさっきジャロがレベル80で自慢していたのは何だったんだよ……
「「「「おおおー!」」」」
「まさかお主は異世界から転生してきたという伝説の勇者か?」
「そのまさかですよ! 僕は異世界からきた伝説の勇者です」
どこまで設定広げるんだよ! っていうか伝説って自分でいうか?
「「「「おおおー!」」」」
「まさか前世では、ごく平凡な家庭で過ごし、平凡に育ったが、ある日突然目の前の美女がトラックに轢き殺されそうになったのを見て、正義感の強いあなたは、いても立っていられずに道路に飛び出し、女性を庇い、死亡。
そして、それを不便に思った神様に異世界転生してもらったとでも言うのか?」
長い。長い。説明文が長すぎて詩の朗読みたいになっている。っていうかジャロは俺のこと好きなのか?
「そのまさかですよ! 僕は女性を庇い死んだ人間です」
「「「「おおおー!」」」」
「まさかこれからこの我輩を倒し、全奴隷の撤廃と永遠の平和と永久不滅の愛と英知をこの国にもたらすというのかっ? そして、国民全員から崇められやがて神話の人物になるというのか?」
「そのまさかですよ! 僕は神話の人物になります」
え? そうなの? マジで。それはちょっと嬉しいかも。っていうかなんでさっきからジャロは少し嬉しそうな早口で喋るんだ?
「「「「おおおー!」」」」
「まさかお主は、この国から――」
言い切る前に、
「そのまさかですよ! 僕はこの国から一夫一妻制を撤廃します」
え? まじ? なんで?
「それは、僕と結婚したがる女性が多すぎて困るからですよ。彼女たちの笑顔を涙で濡らすわけにはいかないですからね」
何で心の声に反応するんだよっ!
「「「「おおおー!」」」」
「まさかお主は、――」「そのまさかですよ!」「まさかお主は、――」「そのまさかですよ!」「まさかお主は、――」「そのまさかですよ!」「まさかお主は、――」「そのまさかですよ!」「まさかお主は、――」「そのまさかですよ!」
しばらく後、俺はジャロを指差して、高らかに
「そのまさかですよ!」
決めポーズのようなものと、決め台詞を解き放った。かっこいい……のだろうか? だんだん感覚が麻痺してきた。
さっきからジャロが何か一言言うたびに俺の株が上がっていくんだけど、もはやこいつが俺の一番の味方なんじゃないかと思い始めた。
そのまさかですよ




