フンッ!
「は? 分け合う?」
「私が右腕で……」「私が左腕……」「私とおばあちゃんが右足で……」「俺が左足……そうすれば、みんな平等だね!」
「でしょ! じゃあ早速切り分けでいきましょう! みんなは“八つ裂きの刑”って知っている?」
「「「知っているっっ!」」」
元気よく答えるみんな。つーかこいつらなんでこんな息ぴったりなんだ?
「は? 八つ裂き?」
「八つ裂きの刑って、馬や牛に手足をロープで括って、同時に別方向に走らせて処刑するあれだろ!」
と、アル。
「は? 処刑?」
「知っているわ! 最も重く惨たらしく残虐で卑劣な処刑法のうちの一つで、国王の暗殺や国家転覆を企んだ極悪人にのみ用いられる極刑よね!」
と、嬉しそうにアリシア。満面の笑顔が不気味だ。
「は? 国家転覆?」
「知っているわ! そういう時は“二重八字結び”がおすすめよ! おばあちゃんが結び方をわかりやすく説明するからよく聞いて!」「“二重八時結び”というのはねとても頑丈で解けにくい結び方なんだよ! 命綱としても便利なんだ。八の字を作るようにしてこうやって結ぶんだよ!」
ウレンは俺の体で実践して見せた。
「うわー! 本当だ! ガルガル。これなら簡単に誰でも八つ裂きができるね!」
「は? ちょっと待て! そんなことしたら俺死んじゃわない?」
「じゃあ! 行くわよ! せーのっ!」
「ちょっまっ!」
その瞬間だった。
「きゃああああああ! お助けー!」
もえの悲鳴が聞こえた。
「おい! マジで遊んでいる場合じゃないから!」
俺はロープを切断し、もえの方に向かった。
もえは地べたにペコちゃん座りをしていた。俺は彼女に駆け寄って、
「大丈夫ですか? 何があったんですか?」
(ん? 丁寧語? 俺の口調がなんかいつもと違う)
「ご主人様が、私にお叱りをするんです」
もえも喋り方がさっきと違う。俺は彼女を抱き起こした。すると――
「だーれだ貴様は? 吾輩はこの国の戦闘貴族のジャロ様だ。吾輩に何か文句があるのか? うん?」
ぶくぶくと太った醜い顔のおっさんが出てきた。手には長めの黒いムチを持っている。いかにも小説や漫画で“序盤に出てきそうな悪いやつ”って感じだ。威勢だけ良くて大したことなさそうな雑魚臭がプンプン匂ってくる。
「当たり前だ! 可愛い女の子をムチで叩くなんて最低な行為だっ!」
俺の心の中では、なぜか正義感が増幅し始めた。
周りのモブキャラ(村人)たちが、
「あの人は戦闘貴族のジャロ様じゃない?(ヒソヒソ)」
「目をつけられたらおしまいよ(ヒソヒソ)」
「あの人に逆らうなんて命知らずね!(ヒソヒソ)」
お手本のようなヒソヒソ声で、場を盛り上げる。
(ってかこっちにダダ漏れなんだけど、ヒソヒソ言っている意味ねー)
ここで俺にこいつをぶっ倒せっていうお膳立てだろうな。
(よし! やってやる!)
「女の子を傷つける奴はこの僕が許さないっ!」
「そ、そんな。あなた様は私とはなんの関係もない旅のお方。私のことを助けてくださるというのですか?」
(え? お前が悪い貴族を倒せって依頼してきたんだよね?)
「ごめんなさい。でも僕は困っている人を見たら体が動いちゃうタチなんですよ」
俺は勇者っぽい爽やかスマイルを顔に貼り付けた。ってかさっきから体が勝手に動くんだけど。
口が勝手に動いて、体もそれに合わせて動く。まるで小説を読んでいるかのようだ。決められた道筋に沿ってストーリーが展開していく。
多分これがこの国のルールなんだろうな。どんなルールがあるのか知らんがとりあえずは流れに身を任せよう。
「ええい! 奴隷はこの国では合法。そいつは我輩の所有物なんじゃ! その手を離せ! うん!」
「この星に存在する全ての生物に与えられた権利……それは……自由だ」
俺はキメ顔で言った。
「我輩のレベルは80じゃ。この我輩に逆らおうというのか? うん?」
レベル80って何? なんの話?
「私のご主人のジャロ様はこの辺り一帯を仕切っている極悪貴族です。ケン様が怪我をすることありません。早くお逃げください!」
もえはめちゃ説明口調で、わかりやすくジャロの死亡フラグを立てた。
「大丈夫ですよ。僕に任せてください」
俺は主人公っぽくカッコよく立ち上がる。もえは顔に不安を貼り付けている。ジャロは余裕の表情だ。
多分、この展開だと、俺がこいつをぶっ倒せばいいんだろ? 多分そうだよな。
「生意気な……これでもくらえ! うん!」
ジャロは雑魚臭がプンプンする台詞とともに、雑魚臭がプンプンするチンケなしょぼいださいムチ攻撃を放った。
「「「「「「「「「危ないっっっ!」」」」」」」」」
周囲のモブキャラどもが俺のピンチを煽る。俺はそれらに応えるように、
「フンっ!」
軽く片腕でムチ攻撃を払った。
「な! な! な! なんだとー! この我輩の攻撃を片手で弾くだと! うん!」
ジャロに続いて、モブ共女も場を煽る。
「な! な! な! なんですってー! ジャロ様の攻撃力は三千をゆうに超えているのに……信じられない!」
「そ、そんなばかな! ありえない!」
「インポッシブル!」
「す、すごすぎる」
「信じられませんわっ!」
俺はモブ共によく聞こえるように、
「この程度ですか? 僕はまだ本気の0,00000001パーセントも出していませんよ?」
「きゃあ! すごい!」「ジャロ様に勝てるの?」「奇跡は……本当に起るのね!」
「なぜじゃ? 我輩のステータスは攻撃、防御、回避全てが三千オーバーなのに……一体どういうことじゃ」
ジャロは空中にステータス画面のようなものを表示して、わざとらしく見せてきた。
「単純な話ですよ……この僕のステータスがあなたのそれを上回っていた。ただそれだけのことですよ」
本当にめっちゃ単純な話だな……と思いつつ、俺も同じようにステータスウィンドウを開いて見せた。




