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この小説は絶対に読まないでください 〜パワーワード〜  作者: 大和田大和
第五巻 LGBTの世界
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これがなろうや!


第一章なろう系とは?


(この話では、なろう系の小説のあるあるなどをギャグネタにしますが、決して批判しているわけではございません)


アリシアがお茶を出す。

「粗茶です」

「嬉しくなんかないんだからねっ!(大声) でも……ぁりがとぅ(小声)」

先ほどの依頼人、もえは、“なろうの国”というところからやってきたらしい。

「それで依頼って何?」

「私の国にいる悪い貴族を勇者様にこらしめてもらいたいんだからねっ!」

勇者になった覚えはないが、とりあえず話を合わせよう。そうしないと話が進まない気がする。

「“悪い貴族を”って具体的には、何をしているんだ?」

「悪いことよ!」

もえは頬をぷっくりと膨らませて言った。

「いや、それはわかるよ。それでどんな悪いことをしているんだ?」

「そんなことあんたに言う義理ないんだからねっ!」

「なんでだよっ! あーもう拉致が開かない……アル! なろうの国の特性って何だっ?」

痺れを切らした俺は横にいるアルに訪ねた。

「なろうの国とは、なろう系小説を現実にしている国だ」

「それでなろう系小説って何?」

「小説のジャンルというか括りというか……小説のスタイルのことだ。その国の情報は少なく、私もよく知らない。依頼人の美少女は、その小説に出てくるツンデレキャラを演じているのだろう。エルフと獣人のハーフみたいだし、萌えキャラのデパートだな」

「はあ? よくわからんが、もえは小説ごっこをしているってことか?」

「ごっこなんかじゃないんだからねっ!」

「そーよ! そーよ! もえにゃんは“本気でごっこをしているわけ”じゃないんだからねっ!」

と、もえを庇うアリシア。もえに笑顔を見せる。だがそれだと、罵倒しているぞ。

アリシアは馬鹿だから多分、自分がもえを罵倒していることに気付いていない。

「わかった。じゃあとりあえずその国に行こう。行ってから考えよう」


そして、なぜかもえは俺の周囲にいる女性メンバーを連れて行きたがった。もちろん『一緒にきて欲しくなんかないんだからね』と言いながら。




空を引き裂いて進んでいく。透明なカーテンは矢のように後ろに飛んでいく。地面の上にまばらに見える景色は、上空からはただの凹凸にしか見えない。森の緑の中に、湖の青が綺麗なアクセントを与える。

緑のパレットに数滴だけ青い絵具を溢したみたいだ。“緑の絨毯を引き裂く青い川”をいくつも通り越し、

「そろそろ着くよ!」

俺たちを運ぶどらにゃん(竜王の息子の金ドラゴン)は言った。

「わかった」

俺は足元をみた。そこには城壁にぐるりと円形に囲まれた、(地球で言う)中世の街並みが見える。オレンジと赤のレンガの屋根が美しい。国には、上から下にまっすぐ一本の川が流れている。まるで国がその身を二つに分かちたがっているみたいだ。

「空から見ると、本当になろうのテンプレだな!」

嬉しそうなアル。どうやらこの街並みはなろうでよくある設定らしい。

「あれは人工的に作られたなろうっぽい川、通称“なろうっぽい世界観の川”なんだからねっ!」

と、もえは、俺に向かって言った。

「なら世界観のためだけにわざわざ川を作ったのか?」

するともえは、質問をスルーして、脈絡もなく、

「あんたなんか大っ嫌いなんだからねっ!」

罵声を浴びせてきた。

「さっき告白してきたのはなんだったんだよっ? ってか俺、君に嫌われるようなことした?」

「さっきのはなろう感を出すための演出なんだからねっ!」

そういうことか……さっき多少なりとも、ときめいてしまった自分が恥ずかしい。

「じゃあ俺のことを嫌いっていうのもその演出ってやつなんだな?」

もえは急に真顔になって、

「それは違う」

「そうですか……」

そして、俺たちは国の入り口に降り立った。入り口に向かう道は綺麗な赤レンガの絨毯だった。舗装路がずっと遠くの森の中まで這いずっている。

ドラにゃんは俺たちを下ろすと、ハイデルキアに帰った。


俺たちは国の入り口に向かって歩きながら、談笑を始めた。そして、そこから俺への罵倒ごっこが始まった。

「あんたなんか大っ嫌いよ! 生理的に受け付けないわ! なんか弱そうだし、私あんたのこと大っ嫌い! 本当の本当に大っ嫌いよ!」

と、もえ。

「私もケンのことがなんだか嫌いになってきたんだからねっ!」

と、アリシア。

「私もケンのことを殺したいと前々から思っていた」

と、アル。

「ケンのこと嫌いよね! おばあちゃん!」「ええ。我が孫。ウレンや。ケンのことは私も嫌いさ」

と、ウレン(黒髪の女の子 指人形を使って喋ります。二個目の「」内は指人形の台詞です)

「俺もケンのこと殺そうとした! ガルガル」

と、ウルフ。お前だけはただの事実だな……

「なあ。お前ら悪ノリするのやめてくんない。冗談でも傷つくんだけど……」


五人は俺の方を向いて、せーので、

「「「「「あんたのことなんて好きじゃないんだからねっ!」」」」」


「あーもうしつこい! さっさと国に入るぞ!」

「ケンはアホでバカで短絡で、カッコ付けで実はビビリで、小心者で頭が悪くて、姿勢も悪くて、すっごい変態の大ばか…………………………なんてこれっぽちも思ってなんていないんだからね!」

と、アリシア。

「ただの罵倒じゃねーか。っていうかデレる前のタメが長すぎる。もう十分傷ついたわ!」

そして、俺たちは城門を通り、国内に足を踏み入れた。大袈裟な木の門を潜って、いざ新世界へ。


足を一歩踏み入れた瞬間、俺の脳内に滑り込んだ感想は、

「なんだこれ……普通の街並みだな」


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