意外(?)な救世主
地面から勢いよく花が咲き乱れた。どこからともなく千色の花が花弁を散らす。咲き誇る色の津波は、空に輝く虹によく似ていた。
金木犀のいい匂いがする。チューリップの可愛らしい花弁が空を舞う。桜の花弁が季節を無視して地面から直接咲き誇る。バラの赤色が俺の血の赤を奪っていく。睡蓮が空中に花を開き、紫陽花が地べたで輝いている。
花で飾られた美しい戦場に誰かが降り立った。
スタッ――
俺はボロ切れのような体を動かす。
「ココ? お前……なのか?」
視線を地べたからゆっくりと上に持ち上げる。花の絨毯の上を焦点が泳いでいく。花を見て、花を見て、花を見て、彼女の足を見た。
そして、俺は助けに来てくれた人物を見た。見間違いなんかじゃない。その人物はココではなかった。
そいつはゆっくりとこちらに向かって歩いてくる。顔には勇気が咲き誇り、大きくあいた胸元からは妖艶なツヤがこぼれ落ちる。黒い髪は長く美しい。へそにあいた銀蛇のピアスが痛々しい。全身のタトゥーは汚らしくも美しい。凶悪で強靭な見た目の中で唯一光り輝くのはココとよく似た真っ赤な瞳。
「立てるか? 助けにきた」
「なんでお前が?」
「そんなこと今はどうでもいい」
体制を立て直した差別主義者たちが俺たちを取り囲む。薔薇に囲まれた庭の中で最後の攻撃の導火線に火がついた。
「俺に協力してくれるのか?」
「…………うん」
クロコダイルは俺の手をとって立たせてくれた。俺は彼女の肩を借りる。ドラゴンナイトを解除して、人間の姿に戻る。
クロコダイルは俺の腰に手を回す。俺は左手を前にかざす。クロコダイルは空いている右手を前にかざす。
「「水よ! 食い尽くせ!」」
俺はなぜ彼女と息ぴったりで共闘ができたのかわからなかった。だけど心の底ではなんとなくわかっていた。クロコダイルの心のパズルと俺の心のパズルが音を立てて組み合わさる。
周囲の花は勢いよく燃え上がる。空気の粒が気泡になって空に弾ける。破断した風はちぎれて砕ける。光は屈折し地面に突き刺さる。炎が吹いて、風が燃え上がる。花が濡れて、水が咲き乱れる。それらは全て混ざり合い、溶けながら俺たちの手の中で剣になった。
俺とクロコダイルはそれぞれの片手で一本の大剣を支える。二人で協力して、力を合わせる。
力に力が重ねられた。勇気に勇気を塗られた。大きく勇気の塊を頭上に振りかぶる。風が凪ぎ、光が湾曲し、空が割れた。時が止まってしまったみたいだ。
そして、クロコダイルとの協力攻撃は、闇を切り払った。




